名古屋大学(名大)は10月14日、高価で希少なルテニウムを使わない比較的安価な材料から構成され、再生可能エネルギーの利用に適した温和な条件下でも高いアンモニア合成活性(アンモニア生成速度)を示す、新型触媒「Co@BaO/MgO」の開発に成功したと発表した。
同成果は、名大大学院 工学研究科の永岡勝俊教授、同・宮原伸一郎研究員、京都大学 触媒・電池元素戦略研究拠点の佐藤勝俊特定講師、九州大学 超顕微解析研究センターの松村晶教授、北海道大学 大学院理学研究院の武次徹也教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、触媒を題材として学際的な広範囲を扱う学術誌「ACS Catalysis」にオンライン掲載された。
水素の貯蔵・輸送媒体として期待されるアンモニアだが、現在の合成法は100年以上昔に実用化されたハーバー・ボッシュ法であり、その実施には高温高圧条件が必要となるためエネルギーの消費量が多いことから、将来に向けて、より地球環境にやさしい合成法の実現に向け、現在、さまざまな新規触媒の研究開発が世界的に進められている。
具体的には、水の電解によって生産される低圧の水素を利用することを目的に、温和な条件(325~400℃、10~100気圧)でアンモニアを効率的に生産できる高性能な触媒の開発が求められているが、このような条件では、工業的なプロセスで使用されている従来の鉄系触媒は適しておらず、貴金属の一種であるルテニウムを用いた触媒を使用することが必須であると考えられてきたという。
しかしルテニウムは高価な資源であり、工業化という点ではルテニウムを含まない安価な元素で構成された高活性触媒の開発が求められているともいう。そこで研究チームが今回着目したのが、希少金属の一種ではあるが、ルテニウムよりは安価で資源量も多いコバルト。ただし、コバルトはこれまで、ルテニウムに比べてアンモニアの合成活性は低いと考えられてきた。
そこで研究チームは、これまでのルテニウム系触媒の開発で見出した触媒設計指針を活用することで、高活性なコバルト系アンモニア合成触媒のCo@BaO/MgOを開発することに成功したという。
同触媒は、重量あたり換算で従来型コバルト触媒「Co/MgO」と比較して、約90倍という高い生成速度でアンモニアを生成することが可能であること、ならびにルテニウム系触媒のベンチマークとして知られている「Cs+/Ru/MgO」や、工業化が検討された「Ru/CeO2」を超える性能を有していることなども確認されたという。
さらなる詳細分析の結果、活性点が形成されるメカニズムや、アンモニア合成反応に対する作用機構について、以下の3点の知見を得ることができたという。
- 活性点であるコバルトのナノ粒子が、酸化バリウムの微細な酸化物の破片で覆われたコア-シェル型の構造であること。
- 高温での水素還元処理によって、大気中では炭酸塩として存在するバリウム種が分解されること。この過程でコバルトとバリウムが相互に移動して、コア-シェル型構造が形成されること。
- 強塩基性元素の酸化物である酸化バリウムからコバルトの表面に電子が注入されることで、アンモニア合成の律速段階である吸着窒素の解離が促進されること。特にCo@BaO/MgOでは、コバルト表面の大部分が酸化バリウムによって覆われることで、大部分のコバルトが高活性なアンモニア合成サイトとして機能していること。
なお、研究チームでは、今回の触媒設計を応用することで今後、より高活性な非貴金属系アンモニア合成触媒が創製できることも期待されるとコメントしている。