日本触媒と北海道大学(北大)病院は10月14日、新規ナノカーボン材料である「酸化グラフェン」と抗菌・抗ウイルス剤を組み合わせることで、水に濡れる環境などでも種々の菌や新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)などのウイルスに対して不活化効果を発揮する「酸化グラフェン複合膜」を開発したと発表した。

同成果は、北大病院 歯周・歯内療法科の宮治裕史講師、日本触媒の共同研究チームによるもの。

酸化グラフェンは、厚さ約1mmという薄いシート構造のナノカーボン材料で、その形状と多くの酸素官能基を活かして、各種基材へ高い付着性を持ち、さまざまな分子、ポリマーなどと強く相互作用することが特徴である。この特性を活かし、単独では基材への付着性が低い物質であっても、酸化グラフェンと複合化させることで基材密着性(耐水性や長期安定性)を向上させることが可能であることが知られている。

抗菌・抗ウイルス分野においては、耐水性が高く、長期に安定な抗菌・抗ウイルス効果を簡便な手法で発揮する技術が求められてきた。しかし、一般的な除菌法や抗菌・抗ウイルス法では「抗菌・抗ウイルス効果が持続しない」、「耐水性が低い」、「水周りや結露しやすい環境に弱い」といった課題があった。

このような課題を解決すべく、研究チームは今回、酸化グラフェン膜の基材上に抗菌・抗ウイルス剤(例えば塩化ベンザルコニウム)を定着させて複合化した膜を開発することにしたという。その結果、水回りのような環境などでも抗菌・抗ウイルス効果を発揮することが確認された。耐水性が求められるような環境であっても、長期間にわたって抗菌・抗ウイルス効果を維持することが期待されるという。

  • 酸化グラフェン

    (左)酸化グラフェンの原子間力顕微鏡像。(右)酸化グラフェンの基材と物質(各種有効成分)との相互作用の模式図 (出所:共同プレスリリースPDF)

また、抗菌・抗ウイルス性の詳細な検証を目的に、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス評価として、「基板のみ(コントロール)」「基板上に酸化グラフェン膜のみ作製」「基板上に塩化ベンザルコニウム膜のみ作製」「基板上に酸化グラフェン・塩化ベンザルコニウム複合膜を作製」の4種類を用意して比較したところ、基板上に酸化グラフェン・塩化ベンザルコニウム複合膜を作製したもので高い抗ウイルス効果を確認。塩化ベンザルコニウムは高い抗菌・抗ウイルス効果を持つが、単独では水洗により容易に流されてしまうことが短所とされていたが、酸化グラフェンとの複合膜とすることで、抗菌・抗ウイルス効果が失われることなく、耐水洗性が向上していることが判明したとのことで、実験では、水中で1か月間保管したサンプルでも、酸化グラフェン複合膜が維持されることを確かめたという。

  • 酸化グラフェン

    一般的な除菌・抗菌法の課題と、今回開発された酸化グラフェン複合膜の効果 (出所:共同プレスリリースPDF)

酸化グラフェンは、さまざまな抗菌・抗ウイルス剤を選択できるため、適用できる菌・ウイルス種が広いことが特徴で、今回のSARS-CoV-2以外にも、むし歯の原因菌であるミュータンス菌や歯周病の原因菌など、さまざまな菌・ウイルスに効果があることも確認されており、無色透明でもあることから、さまざまな場所に対する長期的な抗菌・抗ウイルス効果が期待できるようになると研究チームでは説明している。

  • 酸化グラフェン

    ガラス上の酸化グラフェン複合膜(波長600nmの光透過率99%以上)。(左)製膜前ガラス基板。(右)酸化グラフェン複合膜製膜後。両者を比較しても肉眼では違いを見出せない (出所:共同プレスリリースPDF)

なお、研究チームは現在、酸化グラフェン複合膜の抗菌・抗ウイルス効果を医療応用するための研究を進めているとしている。

  • 酸化グラフェン

    水洗後サンプルの抗SARS-CoV-2評価結果(24時間培養後の感染価) (出所:共同プレスリリースPDF)