矢野経済研究所は10月7日、国内量子コンピュータ市場の調査結果と2030年度までの将来展望を発表した。2021年度の国内量子コンピュータ市場規模(サービス提供事業者売上高ベース)は、139億4000万円になると同社は見込んでいる。

2020年度に引き続き、化学や金融(資産運用やリスク管理)、EC(電子商取引)、広告(レコメンド)、物流、学術用途など一部の分野の先進企業において、従来のスーパーコンピュータでは実質計算が難しい領域を対象として、組合せ最適化問題や探索工程の高速化などのテーマを中心に量子コンピュータを活用した実証実験が行われており、2021年度は利用が広がっているという。

2030年度には2940億円に

また同社は、同市場が2025年度には550億円、2030年度には2940億円に達するものと予測している。2024年度~2025年度には、化学や金融、広告など、先行分野を中心に一部業務での本番運用に向けた動きが始まると見られるという。

  • 国内量子コンピュータ市場規模推移と予測 出典:矢野経済研究所

その他の分野でも一部業務を対象とした実証実験から他の業務への横展開など実証実験が増加、スーパーコンピュータで扱ってきた領域のうち、新機能材料や化合物の探索など一部で量子コンピュータに置き換わる動きが出てくるものとみている。

2026年度以降は、金融分野ではダイナミックプライシングのほか、製造分野では大規模な数値流体力学や空力特性での活用や、化学分野における有望な化合物の構造予測など、シミュレーション領域での活用が本格化するとしている。

2030年度には、自動運転に向けた車両用バッテリーの開発や、医療分野での本格的な量子コンピュータの活用が始まり、予防医療や先制医療をはじめ革新的な治療法など社会的にインパクトの大きな取ろ組みが徐々に登場してくるものと考えられ、同市場は2940億円に達すると同社は予測している。2021年度予測の139億4000万円と比較すると約21倍に相当する。

市場規模の急速な立ち上がりの3つのポイント

同社は、市場規模の急速な立ち上がりのポイントはハードウェアの進化、アプリケーションの創出、ユースケースの発掘の3つを挙げている。

まず、ハードウェアの進化や開発環境の整備に関しては、国内外の事業者によるハードウェアの開発競争が激しさを増しているほか、内閣府が主導するムーンショット型研究開発においても複数の方式で研究開発が進められているという。加えて、ハードウェアベンダーを中心に、開発者コミュニティの構築を通じた開発環境の充実化に向けた動きも出てきているとのこと。

次にアプリケーションの創出に関しては、材料計算やシミュレーション、量子機械学習の領域を中心に、実証実験を通じた成果物として各種アプリケーションが生まれている。また、最適化分野を中心にスケジュールの最適化や座席の最適化など、より身近な課題の解決に向けたアプリケーションが登場し、実際に採用する動きなども出てきているとのことだ。

最後にユースケースの発掘だ。量子コンピュータの普及にあたっては、量子コンピュータの開発やソフトウェアの開発以上に、ユーザー企業自身が自発的にITベンダーとともに量子コンピュータの活用に資する業務課題を探索していく必要があるとしている。

ベンダーによるユーザー企業向け教育に関する取り組みなどに加えて、2020年7月末に「量子イノベーションイニシアティブ協議会」が発足したほか、2021年9月からは「量子技術による新産業創出協議会」が発足するなど、金融分野や化学分野、自動車分野など複数の分野にまたがり、ユースケースの創出に向けた取組みを加速させていく動きも相次いでおり、今後注目するポイントだと説明している。