北海道大学(北大)と日本医療研究開発機構(AMED)は9月14日、「5-ヒドロキシメチルツベルシジン(HMTU)」が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して強力な抗ウイルス活性を有することを発見したと発表した。
同成果は、北大大学院 薬学研究院の上村健太朗大学院生、同・前仲勝実教授、同・松田彰名誉教授、北大 人獣共通感染症国際共同研究所の澤洋文教授、同・佐藤彰彦客員教授らを中心とした国際共同研究チームによるもの。詳細は、生命科学、物理科学、地球科学を扱う学術誌「iScience」に掲載された。
新型コロナや「デングウイルス(DENV)」などのRNAウイルスは、自身のゲノムを複製する際に「RNA依存性RNAポリメラーゼ」(RdRp)を介した核酸合成を行うことが知られている。このRdRpはウイルスによって形はさまざまだが、機能的には似ている部分もあるため、ウイルスのRdRpに作用する「核酸化合物」は、多数のウイルスに対して1種類で有効に働く可能性が期待されている。
北大大学院 薬学研究院の創薬科学研究教育センター(創薬センター)は、日本承認薬である約3000化合物をはじめ、これまでに北大で合成されたさまざまなタイプの化合物を保有しており、今回の研究では、そうして保有されている核酸化合物を母核とする化合物ライブラリに着目、新型コロナを含むコロナウイルス全般やフラビウイルスに対する薬効があるかどうかの検討が行われた。
その結果、DENVと同属であり、ヒトに重篤な疾患を引き起こすウイルスであるジカウイルス(ZIKV)、黄熱ウイルス(YFV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、ウエストナイルウイルス(WNV)などに対し、強力な抗ウイルス活性を有する化合物が「Hit化合物」として選抜されたという。
また、併せてSARS-CoV-2やヒトコロナウイルス(OC43株および229E株)、2002年から2003年に流行したSARS-CoVに対しても同様の評価が行われたところ、抗コロナウイルス活性や作用メカニズムが解析されたところ、「5-ヒドロキシメチルツベルシジン(HMTU)」がSARS-CoV-2に対してウイルスの複製を強力に抑制することができることが確認されたほか、コロナウイルスに関しては、ウイルスRNAの複製を阻害することで、それに続くウイルスタンパク質の発現や子孫ウイルスの産生を阻害することが確かめられたとする。
さらに、核酸代謝拮抗薬は、細胞に取り込まれたあとにリン酸化され、3リン酸化体となることで抗腫瘍効果や抗ウイルス活性を発揮することが知られていることから、HMTUの3リン酸化体「HMTU-TP」を合成し、ウイルスRdRpによるRNAの合成伸長を阻害するかを検討したところ、HMTU-TPはRdRpによってRNA鎖に取り込まれ、そのあとのRNA合成伸長を阻害することが見出されたとするほか、化合物の添加タイミングを変えた感染実験により、HMTUはSARS-CoV-2感染過程の後期において作用し、ウイルスRNAの複製を阻害することが判明。これらの結果は、HMTUはウイルスRdRpによるRNAの合成伸長を阻害することで、ウイルスRNAの複製を抑制し、それに続くウイルスタンパク質や子孫ウイルスの産生を抑制する化合物であることを示唆するものであると研究チームでは説明する。
今回の成果について研究チームでは、SARS-CoV-2やDENVなどの新たな治療薬の開発研究に貢献できることが考えられるとしているほか、核酸代謝拮抗薬、特にツベルシジン誘導体は細胞に対して強い毒性を示すことが知られており、その開発には注意すべき点がいくつか存在するが、今回の研究により見出されたHMTUは、試験した細胞においては顕著な毒性は認められていないことから、今後、さらなる最適化研究により、より高活性かつ安全な化合物へと仕上げていくことが、新興・再興ウイルス感染症治療薬の開発につながると期待されるともしている。