京都薬科大学とPreferred Networks(PFN)は9月6日、PFNの開発したAI技術を取り入れた医薬品探索研究法(AI創薬)を用いて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬のリード化合物を発見したと発表した。
同成果は、京都薬科大副学長の赤路健一教授、同・小林数也准教授とPFNとの共同研究チームによるもの。
「レムデシビル」などの核酸合成系を標的とする化合物や、「REGN-COV2」のようなウイルスの抗体を直接注入する治療法は、一定の臨床効果が報告され限定的ながら、新型コロナの治療に活用されるようになってきた。また、多くの研究機関や大学、企業などが無数の既存薬剤についてドラッグリポジショニングの研究を進めているが、その多くが認可を得るまでには至っていない。
薬の研究開発は通常であれば基礎研究から製造・販売まで10年以上の時間と、数百億円以上の費用をかけて行われ、しかもその成功率は2万分の1以下といわれている。
こうした創薬分野の課題解決に向け、近年、機械学習を化合物デザインへ応用する「AI創薬」に注目が集まるようになってきた。PFNは、人手やルールベースによる構造修飾により設計された化合物や、化合物ライブラリによるバーチャルスクリーニングを実施するだけでなく、種々の化合物生成モデルと「Optuna」などの最適化アルゴリズムを組み合わせることで化合物の設計と最適化を迅速に行うことを可能とするAI創薬プラットフォームを独自に構築。化合物ライブラリに含まれない構造や、従来の方法では着想しにくい構造の提案も可能としてきたという。
そして、これまでの赤路教授らの研究により、ペプチド性化合物や非ペプチド化合物が、SARSウイルスのウイルス病治療薬の標的として有力と考えられているタンパク質「3CLプロテアーゼ」(Mpro)を阻害することが明らかとなっている。
そこで今回の研究では、PFNのプラットフォームを活用して、AIによる仮想空間での分子設計と分子モデリングを実施することで、新型コロナのMproを阻害する、より単純かつ非ペプチド様の化合物の探索が進められたという。
PFNのAI創薬技術と同社のスーパーコンピュータ「MN-2」によって提案された化合物のうち、13の化合物が赤路教授らによって実際に合成され、活性試験が実施された。その結果、7化合物が新型コロナのMproに対する阻害活性を示すことが確認され、新型コロナ治療薬探索における本格的な創薬過程に進むのに十分な性質を有することを示すリード化合物として有力であることが判明したという。
今回の研究成果について研究チームでは、新型コロナ治療薬の開発に新しいアプローチができたとともに、「カテプシン」や「カスパーゼ」といったシステインプロテアーゼを標的とする創薬や、ペプチド様リガンドからペプチド構造脱却を指向した「スキャフォールドホッピング」への応用も可能であると考えられるとしており、今後もこのような最新の手法に貢献できる基礎研究を継続していくとともに、創薬基礎研究の実用化に向けた共同研究を加速させていくとしている。また、PFNとしても、AI創薬技術の改良を続けるとともに、AI創薬に共同で取り組むパートナーを募集し、実用化に向けた研究を加速させていくとしている。