関西学院大学、長浜バイオ大学(バイオ大)、立命館大学、中国・吉林大学の4者は8月12日、「クロロフィル色素誘導体」を用いて天然光合成を模倣した有機太陽電池の動作機構の解明と、「ヒドロキノン酸化還元媒体」を利用した光電変換性能の向上に成功したと発表した。
同成果は、吉林大のShengnan Duan氏、関西学院大 生命環境学部の浦上千藍紗専任講師、バイオ大 バイオサイエンス学部の佐々木真一教授、立命館大 生命科学部 応用化学科の民秋均教授、関西学院大 生命環境学部の橋本秀樹教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の化学全般を扱う学術誌「Communications Chemistry」にオンライン掲載された。
近年、クロロフィル(Chl)誘導体を基盤材料とした「ペロブスカイト型太陽電池」、「有機太陽電池」、「色素増感太陽電池」などの開発が進んでいるが、このような天然光合成の明反応を模倣したメカニズムについて、その原理はよくわかっていないという。
そこで研究チームは今回、Chl誘導体の溶液と薄膜状態に出現する光励起種について、サブナノ秒時間分解吸収分光を用いて詳細に調査し、Chl誘導体を用いた有機太陽電池の動作機構の解明と光電変換効率の向上を目指すことにしたという。
詳細な調査の結果、Chl誘導体の三重項励起種が同定されたほか、薄膜サンプルにヒドロキノン(HQ)を導入したところ、Chl誘導体のキャリア寿命が長くなることが確認されたという。また、このキャリア寿命の延長が光電流の生成によるものであることを確かめるための調査から、Chl-A層にHQを0.5%加えたデバイスが、1.55%というもっとも高い光電変換効率(PCE)に到達するという結果が得られたという。
研究チームによると、今回の研究成果を踏まえると、Chl誘導体を用いた有機太陽電池の駆動原理は、光励起後に三重項Chl-AとChl-Dから、電子と正孔のペア(励起子)が生成され、Chl-A層とChl-D層の境界面において、Chl-Aで生成された正孔はChl-Dで生成された電子と再結合するというもので、デバイスが機能している間、Chl-Aから放出された電子は、ZnO電子輸送体によって引き抜かれ、ITOカソードによって捕集されるのと同時に、Chl-Dで生成された正孔はMoO3電子ブロッカーを通ってAgアノードに渡るという、天然の酸素発生型光合成のZ-スキームの過程と一致するものであることが確認され、これまで確かめられていなかった仮定(Chl-AとChl-Dの間には電荷の再結合がある)が正しいことを実証しているという。
Chl-Dの電子はChl-Aの正孔と再結合する、いわゆる「Chl-A+ + Chl-D- → Chl-A + Chl-D」の反応が起こっていることを示す成果であり、研究チームでは、今回の研究から、性能向上の鍵となるプロセスが特定され、実際に性能向上に結び付けるできることが示されたことで、今後の有機太陽電池開発の明確な設計指針が示されたとしている。