新型コロナウイルス感染症の流行に伴う外出制限によって、政府が「脱ハンコ」を推し進めていることを追い風に、ここ数年で電子締結サービスが急増している。そうした中、LegalForceが8月5日に法務と契約書業務に関するリーガルテックの現状について講演を行ったので、その様子をお届けする。

法務のDXは、なぜ脱ハンコから始まったのか

政府が2021年9月にデジタル庁を発足すると発表したことや、新型コロナウイルス感染症の影響によって、デジタル技術を活用したビジネスモデルの創出が必要になったことを背景に、DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目を集めている。

また、経済産業省はガイドラインの中でDXについて「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義している。

同社CLO(最高法務責任者)の佐々木毅尚氏によると、法務に求められる役割や機能が年々拡大しているとともに、高い専門性を有する法務人材が不足しているという。さらに、テレワークの推進と業務改革を進めるという経営層からのプレッシャーや、生産性を向上させてコストを削減する必要があるため、法務部門にもDXが求められるとのことだ。

  • 法務部門にもDXの導入が求められている 資料:LegalForce

同氏は法務部門のDXを進める際の課題として、法務部門は経理や人事など他の管理部門と比較して後発部門であることや、生産性よりも品質が重視されるという部門の特性を挙げて、法務部門のシステム化が遅れについて指摘した。

一方で、総務省、法務省、および経済産業省は2020年7月と同年9月に、共同で電子署名に関するQ&Aを発表するなど、電子署名容認の動きも強まっており、行政が電子署名をはじめとする電子契約を後押ししていることがうかがえる。

  • 政府も電子契約サービスを後押しする動きがあるとのことだ 資料:LegalForce

企業法務とは

同氏は企業法務の実態を知る際に重要な資料として「法務部門実態調査」を紹介した。同資料は、法務部門を保有する国内の1200社以上が加盟する経営法友会が発行するものであり、国内企業の法務部門組織的実体や業務課題を多角的な視点から解説しているという。

同資料よると法務部門の人員が3名の企業が最も多く、4名以下の企業が約半数を占めている。加えて同氏は、アメリカは日本の法務部門と比較して、法務に携わる人員が5倍程度多いと補足した。

また、法務部門が担当する業務は、契約審査や訴訟の対応などの法務機能、内部通報制度の運営などのコンプライアンス機能、株主総会や役員管理などのコーポレートガバナンス機能の3つに大別され、多岐にわたっている。

  • 法務に求められる業務は多岐にわたる 資料:LegalForce

現代は環境やビジネス市場、テクノロジーなどあらゆるものの変化が激しく、Volatility(変動性)、Uncertainty(確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字からVUCA時代とも呼ばれる。

法務部門を取り巻く環境も急速に変化しており、グローバリズムの変化やニューノーマルに対応したデジタル化の導入が急務となっている。事業のスピードも加速しているため、新規ビジネスへの対応や国内外への迅速な対応も求められているという。

  • 法務を取り巻く環境も大きな変化を迎えているということだ 資料:LegalForce

法務部門に求められる機能

法務部門の担当者に求められるスキルとして法律知識や業務知識、実務経験などといったハードスキルもちろんのこと、近年ではさらにコミュニケーション能力や論理的思考力などのソフトスキルも求められているという。特に法務人材が31名以上所属するような大きな企業で、この傾向は顕著である。

  • 法務に関わる人材に求められるスキルも多様化している 資料:LegalForce

これには、契約審査や法律相談といった法務部門の従来の役割だけではなく、既存業の拡大や新規事業のフィージビリティ調査など、新しい役割が求められるようになった背景があるとのことだ。同氏は、法務部門に求められる機能が今後さらに年々拡大していく点を課題の1つとして挙げた。

他の課題としては、法務担当者の採用ニーズが高まっている一方で、人材確保が難化している点がある。企業が採用する新人弁護士数は横ばいなのだが、人材の需要自体は伸びているという。給与の高い法律事務所に人材が流れ、企業が法務担当者の需要を充足できていないとのことだ。また、法務部門の業務特性上、業務の効率化と質の低下がトレードオフの関係にあるため、その両立が困難とされている。

  • これらの課題から、法務部にも業務の改革が求められている 資料:LegalForce

リーガルテックが求められる理由

リーガルテックとは、文字通りLegal(法律)とTechnology(技術)を組み合わせた言葉である。業務を効率化して生産性を向上するとともに、一定レベルの業務品質を担保できると期待されている。2015年にWeb完結型クラウド契約サービス「CloudSign」の提供が開始されたことをきっかけにして、国内で徐々に拡大してきた考え方だということだ。

  • 不利な契約にならないよう、リスクチェックを効率的に進める必要があるという 資料:LegalForce

現代は事業スピードが高速化する一方で法務案件が専門化しており、業務速度と品質を同時に確保する必要がある。しかし十分な人材の確保も困難であるため、デジタル技術を積極的に取り入れていく必要が生じているのだ。

  • 事業スピードの高速化と業務の専門性を両立するためにもデジタル化が急務である 資料:LegalForce

こうした背景を受けて、契約審査や電子契約をはじめとする契約業務で活用されるリーガルテックを提供する企業が増加している。しかし、案件受付、審査、契約締結、書類管理の各段階に対してそれぞれ異なるサービスが提供されており、案件ごとの管理が困難であるという。

そこで、同社は2021年の秋に契約書の受付から管理までを一気通貫で実施可能なサービスの提供開始を予定している。同社は、ワンストップの案件管理ソリューションを提供することで、法務業務の効率化と品質向上に寄与する狙いだ。

佐々木氏は今後の法務部門の在り方について「不確実性の高い現在の経営環境において、法務部門が事業活動を積極的に支援するニーズが高まっている。また、これからの法務部門には、定型業務をリーガルテックの活用により効率化しつつ、事業戦略策定や新規事業対応といった事業支援活動にリソースを投下していくことが求められる。今後は経営を支える存在として、法務部門の重要性と存在感が高まっていくと考えている」とコメントした

  • LegalForce CLO(最高法務責任者) 佐々木毅尚氏