米国空軍は2021年6月4日、ロケットを使って、物資を世界のどこへでも数時間以内に送り届けることを目指した計画を発表した。

ロケットは民間企業から調達。物資の積み下ろしに必要な技術は米空軍研究所(AFRL)が研究する。実現すれば、前線で戦う軍隊、部隊に、これまでにないスピードで物資を送り届け、作戦能力を迅速に回復したり、人道的支援や災害救助を行うための時間を大幅に短縮したりといった活用が見込めるとしている。

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    ロケット・カーゴの想像図 (C) U.S. Air Force illustration/Randy Palmer

ロケット・カーゴ・ヴァンガード計画

同計画は「第4ヴァンガード・プログラム(fourth Vanguard program)」、もしくは「ロケット・カーゴ・ヴァンガード(Rocket Cargo Vanguard)」と呼ばれており、米空軍による次の10年に向けた科学技術戦略「DAF2030」で示された、最先端の科学・技術の応用による将来に向けた軍事技術の研究計画「ヴァンガード・プログラム」の一環として行われる。

ロケット・カーゴの研究は米空軍研究所(AFRL)が主導し、国防総省や米国宇宙軍、宇宙軍の宇宙・ミサイル・システム・センターも参画する。

AFRLによると、同計画はロケットを使い、最大100tの物資を世界のどこへでも数時間以内に送り届けることを目指すとしている。また、着陸場所として整備されていない場所にも送り込めるよう、不整地にロケットを着陸させる能力や、着陸できない場合に空中から貨物を投下する能力、さらにはロケットから素早く貨物を積み下ろすための技術を研究するという。

AFRLでは「ロケット輸送で貨物を届けるというのは、決して新しいコンセプトではない」としたうえで、これまではロケットの打ち上げコストが高く、また運べる質量や寸法が小さいこともあって、実用的ではなかったという。しかし、最近になっていくつかの民間企業が、地上に着陸して再使用可能かつ、これまでよりも打ち上げ能力が大きなロケットを開発しており、さらに打ち上げコストを劇的に低減できる見込みも出てきたことから、実用化に向けた研究を開始したとしている。

米空軍は、民間の商業ロケットの能力や性能など研究し、国防総省に対して、サービスの実用化に向けたソリューションを提案する。実際の任務は、米宇宙軍からの発注に基づき、民間企業が商業サービスとして手掛けることになるという。

従来、こうした新しい輸送手段やロケットの開発においては、米国政府や軍などが開発を主導し、コストを負担してきたが、現在では民間の宇宙企業がすでに先進的なロケットを開発しているため、それを活用。空軍は代わりに、国防総省のロジスティクス任務の要求に対して迅速に応えるために、貨物の積み下ろしなどの技術開発に主に投資し、実用化後は民間が提供するサービスを通じて、実際の輸送などの任務を調達する“顧客”となる。政府機関が調達し、民間が実際の運用を担うというのは、軍事衛星の打ち上げミッションなどと同じ仕組みである。

なお、現時点で具体的な請負業務などについては言及されていないが、想像図などからはイーロン・マスク氏が率いるスペースXの「スターシップ」が想定されていることがうかがえる。実際、スペースXではスターシップを、海を隔てた大都市間などを数時間で結ぶ、2地点間(P2P)高速輸送システムとして使うことを想定しており、ロケット・カーゴの目標と合致している。P2P輸送システムはほかにも数社が計画、構想している。

ジョン・ロス空軍長官代理は「米空軍は何十年にもわたり、グローバルかつ迅速な輸送手段を提供してきましたが、“ロケット・カーゴ”は未来に向けた、より優れた能力を探求するための新しい方法です」とコメントしている。

ジョン・レイモンド米宇宙軍作戦部長は「ロケット・カーゴ・ヴァンガードは、宇宙軍がいかに革新的なソリューションをサービスとして開発しているかを示す明確な例であり、とりわけ宇宙における、また宇宙からの、さらには宇宙への、自律的な選択肢を提供する能力を示しています」と語る。

「ロケット・カーゴが実現すれば、ロジスティックスのあり方が根本的に変わり、いままでの数分の一の時間で、物資を軍隊に送り届けることができます。紛争や人道的危機が発生した場合、宇宙軍は政府に対し、その戦略目標を達成するための宇宙からの自律的な選択肢を提供することができるでしょう」。

また、米空軍資材コマンドのアーノルド・W・バンチ・ジュニア司令官は「迅速なロジスティクスは、戦力の展開にとって必要不可欠なものです。ロケット・カーゴはそれを実現することを目的としたものであり、たとえば厳しい環境下で前進する部隊の作戦能力を迅速に回復させたり、人道的支援や災害救助を行うための時間を大幅に短縮したりすることができるでしょう」と期待を語っている。

参考文献

Department of the Air Force announces fourth Vanguard program - Air Force Research Laboratory
U.S. Air Force Science and Technology Strategy - Air Force Science and Technology Strategy.pdf
'Rocket Cargo' Becomes Latest Vanguard Project to Get Priority from Air Force - Air Force Magazine