これからの人材管理のテクノロジーの方向性とは

**--オラクルでは、最新のテクノロジーを活用した人事施策に関してどのようなビジョンを持っているのでしょうか。

横井氏: オラクルでは人材・組織管理のためのSaaSを提供しており、そこでは「つながっている」ことと「従業員ライフサイクル全体の支援」、そして「パーソナライズ」の3つをビジョンとして、お客さまをサポートしていくことを考えています。

まず「つながっている」については、一人ひとりの従業員とマネジャーや従業員同士、あるいは個人と会社といった関係について、多様性を尊重しつつ各々が協調できる形でサポートすることを目指しています。

2つ目の「従業員ライフサイクル全体の支援」は、従業員のライフサイクルにおける会社とのタッチポイントをシステムとしてサポートしていくことを表しています。これにより、従業員に対してエンド・ツー・エンドで豊かな体験を提供します。

3つ目の「パーソナライズ」は、それぞれの従業員の役割やワークスタイル、好みや関心、スキルレベルといったものを把握し、個人と組織に合わせて体験と推奨を適切に提示していきます。

従業員を引き付ける仕組みの3つの特徴

――そのビジョンを実現するため、従業員を引き付ける仕組みとはどうあるべきでしょうか。

(1)従業員同士の結びつきを強めてエンゲージメントを向上

横井氏: まず従業員同士がつながるというのが重要かと考えています。その特徴のひとつが「コネクション」という仕組みです。誰でもほかの従業員を検索してプロフィールなどの情報を見られるほか、自分のことをアピールする仕組みも用意されています。また、従業員同士でフィードバックを送り合うことも可能です。

楠田氏: まさに従業員のエンゲージメントを高めることができますね。

アカデミックの世界では、エンプロイー・サティスファクションとエンプロイー・エンゲージメントが明確に分けられています。エンプロイー・サティスファクション、つまり従業員満足度について、過去は労働組合が調査を行っていました。その後は人事部門が行うようになりましたが、いずれも従業員が不満に感じている部分を解消するための制度を作って終わりです。

ただ、それではうまくいかないということで、従業員一人ひとりが自己実現できることを目指す、エンプロイー・エンゲージメントの考え方が広まっています。

特に現在は在宅勤務が中心になり、事業部横断など横のコミュニケーションが減っていると感じています。しかし、こうしたツールがあれば、自分が話したいと思う人を検索してコミュニケーションし、いろんな人と対話することでエンゲージメントを高められるでしょう。

(2)イノベーションを生み出すために必要な仕組み

横井氏: 社内でジョブの公募をしたり、プロジェクトへの参加を呼びかけたりするための仕組みもあります。

例えば、1週間に3~4時間、ほかのプロジェクトに携わって新しいスキルを身に付けたり、普段とはまったく違うチームのメンバーと交流したりすることで新たな気付きを得られ、自分の成長につなげていけるでしょう。こうした取り組みをサポートするのが「機会マーケットプレイス」で、これを使ってプロジェクトメンバーの募集などをオープンにすることで、従業員に対して均等に機会やチャンスを与えることがコンセプトになっています。

また、そうした情報をマーケットプレイスでオープンにすることで、自分が参加できなくても「今、社内でそういうことが起きているんだ」、「こういうプロジェクトをやっているんだったら、自分もこんなことにチャレンジしてみよう」など、いろんなことを感じたり考えたりする機会になるのではないでしょうか。その意味で、イノベーション・エンジンとしての役割も担えると考えています。

楠田氏: これは、箱の中にいる人を外に出してあげる思想だと思います。イノベーション・エンジンという言葉がありましたが、イノベーションというのはバックグラウンドのまったく異なる人たちが対話することで、新しいサービスや製品を開発するきっかけになるという考え方です。この「機会マーケットプレイス」で気付きを得て、従業員が横断的に対話することにつながれば、新しいひらめきが生まれるのではないかと思います。

(3)「ソーシャル」が鍵を握るこれからのラーニング

横井氏: スキルの向上と新たなスキルの獲得の支援も重要な要素です。仕事の流れの中でおすすめのコースを推奨する機能があるほか、ソーシャルな要素を備えていることが特徴です。

例えば、受講したコースに対して星などのマークを使って評価することができるほか、自分でビデオを撮影してラーニングコンテンツを作成して公開するといったことも可能です。また、ほかの従業員をフォローする機能やコミュニティの仕組みもあり、社内のエキスパートが推奨しているコースを受講する、あるいはテーマに沿って従業員同士でコミュニティを作り、スキルを身に付けるための情報を共有することができます。

ずいぶん昔から、自分がやっている仕事、自分が持っているスキルを他人に教え、その人が理解した時に自分もその仕事やスキルを本当に理解したことが分かると言われてきました。こうしたテクノロジーを活用すれば、デジタル上で学び合うことができるため、教えることで自分の理解を深めていく、そうした取り組みにもつながるのではないかと思います。

楠田氏: 日本では以前、階層別に研修を行うことが一般的でしたが、それを廃止する企業が増えています。階層別研修では、基本的にみんなが同じコースを受講することになり、金太郎飴のように同質的な人間を作っていくことになると危惧されています。

その意味で、従業員が自ら動いて、あるいは推奨されたコースを受講するなど、それぞれの能動的な学習をサポートする仕組みは、人材の多様性につながっていくのではないかと思います。特に現在は価値観の多様化により、さまざまな意見を持った従業員を育成していくという観点において、こうした仕組みを検討することは有効になるでしょう。

改めて考えるべき従業員を引き付ける仕組み

新型コロナウイルスの影響、あるいは社会的なDXの進展など、企業経営を取り巻く環境は激変しており、人材育成、あるいは人材管理の観点にも大きな影響が生じています。

また、少子高齢化が進む日本では、人材獲得競争が激化することが十分に考えられるため、これまで以上に従業員エンゲージメントを高めることが重要になってくるのは間違いありません。

こうした観点で考えた時、人事部が考える従業員との関係性や最新のテクノロジーを活用し人事のDXをどのように進めていくのか。改めて考えてみるべきではないでしょうか。

執筆

丸島美奈子

日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業開発本部 ビジネス企画・推進部 HCM担当シニア・マネージャー