「オフィスを行きたくなる場所に」、新オフィスを開設したPwC Japanグループ(以下、PwC Japan)は、目指すオフィスの姿をこう表現する。新オフィスプロジェクトを進めた担当者2人に、移転の狙い、新型コロナを経てオフィスのコンセプトがどう変わったのか聞いた。
新型コロナ前にスタートしたオフィス移転プロジェクト
PwC Japanは2月、東京都大手町にあるOtemachi Oneタワーに新オフィスをオープンさせた。ここには、丸の内にあったPwCコンサルティングと霞ヶ関にあったPwC税理士法人およびその関連法人のオフィスを集約させ、従業員合計約3500人の新たな拠点とした。
移転計画プロジェクトが立ち上がったのは、新型コロナが猛威をふるう前の2019年6月、約6カ月かけて基本設計を完成させたという。
PwC Japanでオフィス移転プロジェクトの責任者を務める総務部 マネージング ディレクター 杉山優子氏は、オフィス移転の背景を、「組織や部門を横断したやりとりを活性化させたいという狙いがありました」と明かす。
PwC Japanではこれを、LoS(Line of Service)を超えた協働を意味する” X-LoS(Cross Line of Services)”と称している。新オフィス開設により、大手町パークビルディングのPwCあらた有限責任監査法人、PwCアドバイザリー、PwC弁護士法人と合わせて、PwC Japanの主要法人の拠点が大手町に集約された。
これまでは15-20分かけて拠点間を移動していたが、同じ場所にいることが重要だと考えたという。
PwCコンサルティング(以下、PwCコンサルティング)のパートナー 愛場悠介氏も、「新しいアイディアを生み出すときは、会って意見を交換することが有効」と述べる。
そこで、新オフィスのテーマを「共創」と定め、実現するためのコンセプトを「One Platform,Diverse Possibilities」とした。オフィスを環境プラットフォームとして、その上で多様な可能性の連携を進め、新しい価値を創造するという狙いがあるという。
もう1つの重要なキーワードが「Client Centric by One PwC」だ。これが目指すのは、PwC Japanとしてワン・カルチャーを創出することと、それを通じた顧客視点の価値の創造だ。Client Centric by One PwCを実現していくにあたって、重要な項目をいくつか定め、それを具現化するエリアをオフィスに作った。
内階段によりコミュニケーションを促進
PwC JapanのオフィスはOtemachi Oneタワーの18階~22階。18階の受付エリアには、クライアントとのミーティングや仕事をカジュアルにできる場所を設けた。これは、顧客視点の価値創造の1項目である「顧客体験の強化」を具現化するものだ。
同じく18階にある「エクスペリエンスセンター」は、クライアントとPwC Japanが共創で新たな顧客体験(エクスペリエンス)を設計し、イノベーションを生み出すエリアとなる。ワークショップ用のスタジオも完備し、ビジネス(Buisness)、エクスペリエンス(eXperience)、テクノロジー(Technology)のBXTを融合したサービスが可能となっている。18階にはこのほか、外部の顧客を招いてセミナーをするエリアなども用意した。
「ホテルのロビーのようなイメージです。『近くに来たから』とお客様がふらっと立ち寄るようなことも狙っています」と愛場氏は説明する。
19階から20階はPwCコンサルティングのフロア、21階にはオフィスと社内向けのカフェエリア(7月オープン予定)があり、22階はPwC税理士法人のフロアとなっている。3階分のフロアは、スポーツ/アート/アカデミックとそれぞれテーマを設けており、気分に応じて使い分けることができる。
One PwCの項目の1つに挙がっている「パートナーとのコミュニケーションの強化」では、共同経営者であるパートナーと気軽にやりとりできる環境を作るべく、新オフィスではパートナーのエリアを設けるにとどめ、パートナー個人の部屋をつくることをやめた。出社しているパートナーはそのエリアにいるので、開かれた空間で気軽に話しかけることができるという。
そして、19階から22階を貫くのが内階段だ。新オフィスの目玉とも言えるもので、狙うのは、階段ですれ違うことで生まれる「何気ない出会い」「自発的なコミュニケーション」だ。内階段を含むエリアを”Co Creation”エリアとし、高さの違う机や椅子、デジタルホワイトボードを設けた。
「リモートワークでは不可能な、新しいアイディアを生み出すための仕掛けを用意した」と愛場氏は語る。
WeWorkで有名になった内階段だが、日本でもオフィスのトレンドとなっている。PwC Japanではこれまでも内階段のアイディアがあったが、主にコストの面から断念してきた。だが、米国などPwCネットワークの海外のメンバーファームのオフィスでは内階段によりX-LoSが活性化している事例もあり、今回、設置することを決断したという。
「やってみたところ、効果はすぐに出ています。」と杉山氏は語る。
全スタッフに配布されたモバイル端末では、会議室の予約システム、フロアの混雑状況がわかるヒートマップといった業務インフラも利用できる。
オフィスは選択肢の1つに過ぎない
新型コロナにより、オフィスの意義が大きく変わりつつある。コンサルタントは顧客のオフィスで仕事をすることが多いということもあり、PwC Japanは2009年よりリモートワークの本格的な導入を進めてきた。そのため、コロナ禍でも特にやり方を大幅に変更することはなかったという。
「目標の出社率は30%以下ですが、実際は20%前後(※1)で推移しています」と杉山氏はいう。
※1出社率はクライアント先での業務を含む。
それでも、オフィスに投資する背景について杉山氏は、「リモートワークの課題も見えてきた」と述べる。
「リモートワークは、決まった業務を実行するには適しているが、新しいことを考えるのは難しい」というのだ。実際、入社して一度もオフィスに来たことがないというスタッフもおり、そういった人に他のメンバーとコラボレーションしてもらうにはどうすれば良いかという課題も感じているという。
ブレストなど、コラボレーションをリアルとデジタルで促進するインフラの整備も進める。
新オフィスでは、出社しているスタッフとリモートワークしているスタッフのコラボレーションを促進するツールとしてデジタルホワイトボードを一部導入した。ほかにも、モバイル端末の位置情報をWi-Fiにより特定できる仕組みも整えた。これにより、名前を検索するとそのスタッフがオフィスのどこにいるのかがわかるという。
「基本的には集まらないが、つながることができる」と愛場氏は説明する。
「デジタルでつながりながら創発していく」(愛場氏)という方向性と、魅力的なオフィスという方向性は、相反するようにも感じるが、これからのオフィスの目指す姿を、愛場氏は「おしゃれして人に会いにいく場所」と展望する。
杉山氏は「オフィスは選択肢の1つ。企業として、どこでも働くことができる環境を整えるべき」と指摘する。選択肢の1つではあるが、「人に会えることで、相乗効果が出るような場所」を目指したいと同氏は述べる。
「コンサルで重要なのはノウハウ(Know How)ではなくノウフー(Know Who:誰を知っているか)です。社内に長くいればノウフーが蓄積されますが、デジタルを利用することで、入社してすぐにつながるべき人がわかります」と愛場氏。
そして同氏は、「オフィスはこれまでは行きたくない場所だったかもしれませんが、コロナ禍でリモートワークが長期化して、人とつながりたいという気持ちが生まれています。新しいオフィスの姿は、行ったら人とつながることができ、新しい体験ができ、アイディアを生み出すことができるような場所であるべきです」と語った。