国立天文台は4月16日、野辺山宇宙観測所の45m電波望遠鏡と、米CARMA干渉計の観測データを合成することで、オリオン大星雲の精密かつ広域な電波画像の作成に成功し、分子雲コアをリスト化することができたことを発表した。
同成果は、総合研究大学院大学/国立天文台 科学研究部の竹村英晃大学院生、総合研究大学院大学/東京大学/国立天文台 科学研究部の中村文隆准教授ら国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
星は、極低温の水素ガスやダストなどからなる分子雲から誕生することが分かっている。分子雲はガスの密度に揺らぎがあり、特に密度が高い「分子雲コア(コア)」が点在し、それらは星の卵と考えられている。我々の太陽も、核融合が始まって自ら光り輝き出す前は、こうした分子雲が集まってコアとなり、そして核融合が始まって原始星となり、今日に至ったと考えられている。
誕生する星の質量はさまざまだが、太陽と同程度のものもあれば、主系列星の中でも大きな大質量星や、逆に太陽よりも小さくて軽い赤色矮星などもあることが分かっている。どの重さの星がどの程度あるのか、星の重さ別の個体数分布を「(初期)質量関数」というが、この質量関数は、天の川銀河においては場所によらずほぼ同じであることが知られている。そのため、星の質量関数の普遍性を解明するには、コアの質量関数(コアの重さ別の個体数分布)を調べ、これらの2つの質量関数を説明する星の誕生モデルを考えることが重要とされてきた。
これまでのところ、コアの質量関数も星の質量関数と同じ傾向であり、コアの質量はそのまま星の質量に結びつくと考えられてきており、これにより星の誕生がコアの内部で完結することが示され、星の形成過程の標準モデルとして広く受け入れられてきた。
しかしこれらの描像は、ある程度限られた領域、かつ限られたコアの数から導かれたものであることが課題だったため、普遍的な星の形成過程を知るためには、より広域かつ精細な画像を元にしたコアの質量関数を調べる必要があった。そこで研究チームは今回、「星のゆりかご」とも呼ばれる、天の川銀河内の代表的な星形成領域であるオリオン大星雲に着目。その広い領域を電波で観測することで、この真否を確かめることに挑んだとする。
今回の研究で利用されたのが、野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡と、米国のCARMA(カルマ)干渉計だ。今回の研究では、この2つの観測データを合成させることで、これまで以上の精密かつ広域のオリオン大星雲の電波画像が作製された。電波画像からは、コアのような冷たいガスの分布を直接調べることが可能であり、その結果、オリオン大星雲にあるコアのほぼ完全なリストの作成ができたという。
そして、この精密かつ広域なオリオン大星雲のサンプルから得られたリストを用いて、コアの質量関数と星の質量関数の詳細な比較が行われた結果、これまでの描像とは異なり、観測されたコアの質量関数と星の質量関数について従来の星形成のシナリオでは説明することができないことが分かったとする。原始星(星の赤ちゃん)はコア(星の卵)に比べ、これまで考えられていたよりもずっと重いことが明らかになったのである。つまり、コアはそのまま星になるのではなく、そこからさらに多くのガスを集めて質量を増大させてから星として誕生するということが分かったということとなる。
しかし、コアから原始星へとなる段階でどのようにしてガスを集めるのかといった仕組みはまだよくわかっていないとする。ただし今回の研究により、コア・原始星が非常に大食漢であるということは間違いなく、自分の周囲のガスを自分の体重ほども取り込まなければ、我々の太陽のような大人の星には成長できないということがわかってきたという。
そのため、研究チームは今後、星が誕生する別の現場に観測対象を広げ、今回のオリオン大星雲の観測で得られた星の誕生過程が、ほかの場所でも成り立つのかを調査する予定としている。