量子コンピュータを活用した現在の取組事例

現段階で、量子コンピュータがどのような分野で実際に活用されているのか紹介しよう。

多くは、アカデミックなR&D、プレスリリースによる取り組みの発表、机上検討などが多いが、実際に実証実験が行われているものもあり、そのひとつがDENSOが実施している工場内の無人搬送機AGVの経路の最適化だ。工場内のAGVの運行ルートについて、D-Waveの量子コンピュータ「D-Wave2000Q」でリアルタイムに最適化し、渋滞を緩和。他にも富士通やNECも量子コンピュータを活用したこのような”スマートファクトリー”の実現に向けた取り組みを実施している。

 

DENSOの量子コンピュータ活用に関する動画

リクルートコミュニケーションズは、デジタルマーケティングにおける広告配信の最適化などを量子コンピュータを活用して実証している。例えば、同社が提供するじゃらんnetにおける宿の表示順番の最適化だ。D-Waveでホテルを表示する順番を最適化して売り上げ増加を示すことができたという。

 

リクルートコミュニケーションズの量子コンピュータ活用に関する動画

また、DENSOと豊田通商はタイのバンコクのタクシー・トラック約13万台に取り付けられた専用車載器から収集した位置情報を使って、D-Waveの量子コンピュータで渋滞解消や緊急車両の優先的な経路生成の実証実験を行っている※4。 また、フォルクスワーゲン・グループも北京のタクシー418台から収集した移動データを使って、北京市内の中心部と北京空港の間の交通の流れを最適化する概念的な実証を実施している。

AI(機械学習)と量子コンピュータと組み合わせた取り組みもある。

グルーヴノーツは、ディープラーニング技術と量子コンピュータのクラウドプラットフォーム「MAGELLAN BLOCKS」※8を提供している。 JR九州は、このグルーヴノーツの「MAGELLAN BLOCKS」を用いて鉄道車両の運用を最適化の検証に活用するようだ。

他にも数多く事例はあるが、例えば、kewpieは製造ラインのシフトの最適化に、三菱地所は廃棄物収集運搬業務の経路最適化などに、Family Martは新規店舗の売り上げ予想に、JCBはコールセンターの入電数の予測や配置計画に活用している。

参考文献

・※4 デンソーと豊田通商、商用サービスへの 量子コンピュータ応用の実証実験を開始
・※5 https://www.ibm.com/case-studies/mitsubishi-chemical/
・※6 https://www.ibm.com/case-studies/exxonmobil/
・※7 https://www.ibm.com/case-studies/daimler/
・※8 https://www.magellanic-clouds.com/blocks/?_ga=2.3950384.1204927218.1618383311-1298845717.1618383311

 「万能量子コンピュータ」が導く未来とは?

さて、未来に目を向けてみよう。この「万能量子コンピュータ」の実現によって将来驚くべき未来が実現されようとしている。

つまり、現在では、複雑でパラメータが多く、予想が不可能もしくは困難な事象を正確に割り出すのに役立つのだろうということだ。

例えば、航空業界。実は、運航管理は、複雑で多くのパラメータで実施されているという。悪天候時やシステムトラブル時にはさらにパラメータ数は増大してしまうらしい。そのような混乱時の解決策、回避策を割り出したりすることができるようになることが予測される。また、航空機の予備部品を事前に、国内もしくは世界のどの空港に置くのが最適なのか、他にも乗客、乗務員、およびメンテナンススケジュールへなどを加味した最適なリソース配分なども可能になるという。

そのほかには、金融が挙げられるだろう。投資家のポートフォリオの最適化やデリバティブ取引の適切な価格設定、そして、金融機関が異常な取引をより正確に特定し、不正を迅速に発見することができたりする。他にも上記で紹介したスマートファクトリー、物流や交通分野ではもっともっと進化を遂げるだろうと予測される。。

実は、筆者が最も関心を持っているのは、日本が進めるJSTのムーンショット事業目標6に示されたこんな一文だ。

「さまざまな反応の量子状態を厳密に計算し、物質の状態を正確に予言することが可能」

これは、とてつもなくすごいことだ。

例えば、材料や医薬品の開発などは、実際に実験や試験を実施することで、スケジュールとコストをかけたり、さまざまなリスクを負ったりしながら実施されてきたことだろう。これが完全に正確な予言ができるとすると、この”手間”は解消されるのだ。つまり新しい創薬や夢のような材料開発が加速するだろう。 このイメージ図には、人工光合成や人工窒素固定の実現の話題が事例として書かれている。他にも生物、医療、環境などにも活用されたならば、これらにとどまらないすごい未来が実現されるのではないだろうか。