北海道大学(北大)は4月13日、中国河北省のジュラ紀後期の地層(オックスフォーディアン期の約1億6100万年前~1億5800万年前の地層)から発見された翼竜化石を、「クンペンゴプテリクス・アンティポレカツス」として記載したと発表した。

同成果は、北大 大学院理学院の周炫宇大学院生、北大 総合博物館の小林快次教授らの研究チームによるもの。詳細は、「Current Biology」にオンライン掲載掲載された。

プテラノドンに代表される翼竜類は、約2億5000万年前から約6500万年前までの中生代に生きていた爬虫類の一種だ。中生代は3つの紀があるが、その最初の三畳紀に出現し、続くジュラ紀、最後の白亜紀と繁栄を続けた。そして、巨大隕石の落下による直接的な被害と、その後の全球的な環境の大激変により、白亜紀の終わりに恐竜などと共に絶滅したことがわかっている。

また翼竜類は、脊椎動物の進化史において、初めて空を飛んだグループであることも大きな特徴だ。なお、恐竜と同時代に生きていたことから、“空飛ぶ恐竜”的に見られてしまうことがあるが、同じ爬虫類ではあるものの恐竜とは異なるグループである。

先行研究によって、翼竜類のいくつかの種類における空中での体の動きについての議論や、翼竜類における飛翔の起源についての議論はされてきているが、十分な証拠や包括的な生態学・形態学的な分析に欠けていたという。

そうした中で、翼竜は伝統的にランフォリンクス類とプティロダクティルス類の2つのグループで構成されていると考えられている。しかし、現在ではかつてのランフォリンクス類とされていた翼竜たちが多系統であるとする説が提唱されており、今ではランフォリンクス類内の関係性は複雑であるといわれている。

一方で、プテラノドンの仲間であるプティロダクティルス類は単一の系統であることが長く支持されており、その原始的なグループの1つとして、ダーウィノプテルス類がいる。ダーウィノプテルス類は、主にジュラ紀後期の中国に棲んでおり、ダーウィノプテルス属(中国)、プテロリンクス属(中国)、クンペンゴプテルス属(中国)、ウコンゴプテルス属(中国)、クスピセファルス属(イギリス)が知られている。

  • クンペンゴプテリクス・アンティポレカツス

    ダーウィノプテルス類の系統樹と、産出した時代が示された図。ダーウィノプテルス類の翼竜類が、ジュラ紀後期から見つかっているのがわかる (出所: 北大プレスリリースPDF)

今回の研究では、中国河北省の中生代ジュラ紀後期の地層から発見されたダーウィノプテルス類クンペンゴプテルス属の全身骨格の標本が詳細に分析され、同属の新種「クンペンゴプテルス・アンティポリカツス」(以下、アンティポリカツス)として記載された。アンティポリカツスは、翼幅が85センチ程度と推定された。

  • クンペンゴプテリクス・アンティポレカツス

    今回の研究成果である、新種として記載されたアンティポリカツスの標本 (出所:北大プレスリリースPDF)

アンティポリカツスの固有の特徴には、比較的小さな中手骨、翼を形成する第2指骨よりも短い第3指骨などがある。そして特に奇妙な特徴は、両手の母指(第1指)が、ほかの指(第2、3、4指)と離れており、かつ両者の指腹を向かい合わせられる母指対向性ということだ。要は、ヒトの親指と同じ特徴を備えているということだ。

  • クンペンゴプテリクス・アンティポレカツス

    クンペンゴプテルス・シネンシスの左手の化石と、そのデジタル化された画像(B~D)。(A)と(C)から、第1指が第2指や第3指と反対を向いているのがわかる (出所:北大プレスリリースPDF)

この変わった母指の配置は、死後本来の位置から場所がずれたためということではなく、アンティポリカツスが持つ特徴と断定された。母指対向性は、もちろんヒトにしかないわけではなく、哺乳類、とりわけヒト以外の霊長類にも見られるし、カメレオンなどの一部の爬虫類や、鳥類にも見られる。母指対向性により、木の枝を握ることができ、木々を移動することができる能力があるということだ。

今回の発見によって、アンティポリカツスの母指対向性は、世界最古の記録となった。アンティポリカツスは、この掴める手を使って、木を登ったり、木にぶら下がったりしながら、樹上生活をしていたと考えられるという。

研究チームによれば、ジュラ紀後期の中国は、多様化した翼竜類が栄えていたと考えられるという。その証拠の1つが、アンティポリカツスと同じクンペンゴプテルス属の「(クンペンゴプテルス)・シネンシス」だ。シネンシスもまた対向した第1指を持つ翼竜である。

主成分解析によればシネンシスは、同じ地層から発見されている翼竜類とは異なった生態的位置を占めていたことが示唆され、当時の亜熱帯性の森の中でも低い競争率で生活していた可能性があるとする。それが、ジュラ紀後期の中国が多様化した翼竜類が栄えていたことを示している証だという。

さらにこの地層から発見される化石記録から、飛行する哺乳類でモモンガに似た哺乳類のボラティコテリウム属、ヴィレヴォルドン属、マイオパタギウム属も生息し、皮膜を持ち異質な飛翔を獲得した恐竜「イー・チー」(翼竜ではなく恐竜)などが知られている。研究チームは、ジュラ紀後期の中国は、翼竜類だけではなく、脊椎動物の空への進出、空への生活の高い多様性の開花を始めた環境が広がっていたと考えているとしている。

また研究チームは、翼竜類の進化や生態はまだ多くの謎が残っていることから、今後も中国の翼竜化石を研究し、翼竜類の進化や生態を追求していくとした。