東北大学は、プロトン伝導性イオン液体、無機ナノ粒子、光硬化樹脂を混合して作製したインクを用いて、3Dプリント可能かつ固体蓄電デバイスに応用できる「プロトン交換膜」を開発することに成功し、疑似固体電気化学キャパシタを作製、それが充放電可能であることも確認したことを発表した。
同成果は、東北大 多元物質科学研究所の本間格教授、同・シュタウス・スヴェン准教授、岩瀬和至助教らの研究チームによるもの。詳細は、「ACS Applied Energy Materials」に掲載された。
3Dプリンティング技術のさまざまな分野での活用が広がっている。そのうちの1つとして、ウェアラバルデバイスやフレキシブルデバイスの電源として、二次電池や電気化学キャパシタなどのエネルギー貯蔵デバイスの利用が考えられているが、ポイントとなるのがその形状だという。デザインの自由度の高い3Dプリンティング技術を用いれば、ウェアラバルデバイスやフレキシブルデバイスに適した形状の二次電池や電気化学キャパシタなどを作製できると期待されているためである。
電気化学キャパシタやバイオ電池など、プロトンの移動によってエネルギー貯蔵や変換を行うエネルギーデバイスは、基本的に2つの電極とその電極間に存在するプロトン伝導膜(プロトンが伝導する絶縁膜)で構成されている。
これまでの研究では、それらに用いられる電極を3Dプリントやスクリーンプリントで成形することによるデバイス作製が検討されてきたという。しかし、まだプロトン伝導膜を3Dプリンティング技術により成形する技術が開発されていないという課題があった。そのため、デバイス全体をまとめて3Dプリンティング技術により作製することは不可能とされていた。特にインクの粘度を適切に制御することは重要となることから、研究チームは今回、任意の粘度を有する3Dプリントが可能なプロトン伝導膜用インクを作製のため、室温で液体として存在する塩であるイオン液体に無機ナノ粒子を混合すると粘度が変化してゲル状になるという現象を活用することにしたという。
具体的には、プロトン性イオン液体および無機ナノシリカ、そして光硬化樹脂を用いる手法が提案され、3Dプリンティングに適したナノインクを作製できることが実証された。さらに、3Dプリント吐出したインクに紫外線ランプを照射することで光硬化樹脂を硬化させることにより、吐出形状を維持できることも確認された。
これらの技術を用いて疑似固体電気化学キャパシタが作製されたほか、それが充放電可能であることが実証された。
また今回開発された疑似固体電気化学キャパシタは、その名の通り、疑似的に固体状態を維持している、つまり、従来の電気化学キャパシタなどのように内部液の液漏れの心配がない、難揮発性かつ難燃性のイオン液体を使用していることから高い安全性を有する、ということも大きなメリットだという。
今回の研究で用いた手法では、多様なイオン液体や無機材料、樹脂原料を出発原料として利用することが可能であり、任意のイオン伝導性・機械耐久性・柔軟性を付与できることが期待されると研究チームでは説明しているほか、短時間・低コストで小型~大型固体蓄電デバイス用の電解質材料を製造できることも期待できるとしている。
なお、今回の技術を応用すれば、電極自体も3Dプリント技術により成形することが可能であるため、今後、研究を発展させることで、電極と電解質すべてを3Dプリンティングにより造形した固体蓄電デバイスの作製、さらにはオンデマンドなフレキシブル/ウェアラブルデバイスの作製が可能になる可能性も期待できると研究チームでは説明している。