働きやすさを意識したファシリティ選定

大きな変革があれば、不満も出るものだ。しかし、KDDIエボルバの場合、一般にオフィス刷新の主体となることの多い総務部門ではなく、ユーザー自身である技術統括本部が主体となった改革であったため、構築者と利用者のイメージのギャップが存在しなかったという強みがある。コンサルティングサービスも利用せず、ベンダーからの提案を社内メンバーが吟味し、ブラッシュアップしながら構築した、利用者目線のオフィスなのだ。

「プログラマーなどは座り作業も多いため、いい椅子にしてほしいという要望が多くあったので、オフィスとしてある程度統一感を持った上で長時間作業に対応できる椅子を選定しました。ランバーサポートがあったほうがいいなど、作業メンバーからの要望を集めました。また、ちょっとしたコミュニケーションや作業用にスタンディング作業のニーズがあったことを受けて昇降デスクを設置しましたし、作業効率化のために全席にアーム可動式の24インチモニターも設置しました。必要があれば画面を追加できるようにもしています」という遠藤氏の言葉からは、エンジニアが働きやすいオフィスであること、ファシリティの選定も利用者の声が反映されていることがよくわかる。

  • スタンディングの作業のニーズに応えて設置されたデスク

コミュニケーションの場としてオンラインミーティングブースのほかに、人数規模に合わせたミーティングブースをいくつかゾーニングして設けるなどしている。また、集中しやすくリラックスできるオフィスを意識し、ソファ席や植栽の設置も行ったという。

  • リラックスできるソファ席が設置されているエリア

「朝礼やグループミーティングは必ず毎日オンラインで行うことになっていますし、コミュニケーションのタッチポイントは以前より上がったと聞いています。全体でオンラインの利用率が増えたことで、会議室の空きを探す手間がなくなりましたね。いつでもすぐに会議を開催でき、前後の移動も必要がなく1分単位で連続開催できることで生産性が高くなったとも感じています」と遠藤氏。

オンラインを取り混ぜての活発なコミュニケーション、フリーアドレス化による壁のない広いオフィスが産む一体感という効果が出ている一方、当初目的であるセキュリティ強化もしっかり行われている。

技術的に高い秘匿性が必要であるシステムに関しては専用室を設け、入室も限られたメンバーに絞るなどセキュリティを厳しくしている。物理的なロケーションと権限設定の双方で利用者を分けた上で、入退室を静脈認証利用で管理するなど厳重だ。エンジニアが働く場として、作業のしやすさと扱う情報の繊細さの双方に十分な配慮が行われたオフィスとなっている。

  • コールセンターを運営していることも踏まえセキュリティにはこだわったという。入退室は静脈認証利用で管理している

時代が求める状況に柔軟対応可能なオフィスが産む価値

「今までは場所の制約や、出社しなければいけないという環境やインフラといったロケーション的な制約もありました。もっと前から機能的なオフィスの構築はできたでしょうが、そうした制約からできないことも多かったと思います。それがコロナ禍で強制的に取り除かれたことで、自由度が増し、機能的に動かしやすくなったと思います。ABWを取り入れやすくなりましたし、機能的に自由な働き方が選べるようになりました」と、遠藤氏は状況による強制的な変化が、新オフィスの構築や利用感の変化につながっていることを指摘する。

技術統括本部は新オフィス入居を2020年12月に行ったが、年始から東京都で緊急事態宣言が発令されたこともあり、それほど多くの社員が十分な回数利用している状態ではない。細かな要望や変更点は今後出てくることになるだろう。しかし、使ってみた人々には魅力あるオフィスとして受け入れられたようだ。

「今のところ不満の声は出ていません。今後課題が出てきた時も、オフィス全体をフリーアドレスで構築し、ABWを取り入れたゾーニングを行っているので、後からの変更にも対応しやすい構造になっています。今回のオフィス構築は技術統括本部側から集約構想を上申し、自分たちで構築したこともあり、やりたかったことをやりきった感があります。コロナ禍、ニューノーマル時代という世の中の動きと、自分たちがやりたかったことが重なった部分があると思います」と遠藤氏は、感染防止対策をしながらのテレワーク全国展開やオフィス構築をこなす苦労があったことも振り返りながら手応えを語った。

新オフィスは「SYNC UP」をコンセプトにしている。これは働く人々のマインドを常に最新のものにアップデートし、DX・CX・企業・組織・個のすべてがSYNC UPしあい、シナジー効果を生み出せる場になるオフィスという意味だ。新たなアイデアの創出や生産性の向上、その結果生み出される価値あるサービスの提供といったものが期待されており、多様な働き方に対応しながらも出社することで得られるメリットもあるオフィスということになるのだろう。

「今後は世の中の動きに合わせて流動的に対応することになりますが、今の働き方が当たり前になるでしょう。オンラインやデジタルは利用しつつ、それだけで解決できずに対面で何かをすることや、人が対応する業務・作業はプライオリティが上がって特別な付加価値の高いものになると考えられます」と遠藤氏は今後の見通しを語る。

安定しない状況の中、ニューノーマルへの対応やABWを取り入れた働き方とオフィス環境は広く求められている。ウィズコロナ、アフターコロナの中では、さらなる変化を求められることもあるだろう。しかし現在の状況で使い勝手のよさと堅固なセキュリティを両立させ、変化への柔軟性も持たせたオフィス構築を技術統括本部が成功させたことはKDDIエボルバにとっても大きな価値がある。

「経営層からの期待や要望だけでなく、現場の要望も吸い上げて構築した新オフィスは会社から見ると実験的な部分があったと思うのですが、効果を実証できたのではないでしょうか。今は働き方を変えざるを得ない世の中になっています。感染対策だけでなく、この1年で急速に取り入れられているリモートやデジタルに対応できるオフィスの構築を、社内で先陣を切ってやれたことは大きく、経営の期待にも応えられたと思っています。今後も、目的によって一番よい方法をチョイスする働き方を模索し、推進していきたいですね」と、遠藤氏は力強く語った。