日本電気(NEC)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)、日本総合研究所(日本総研)の3社は3月22日、量子コンピュータにおいて主に組み合わせ最適化問題を解くために特化した実現方式である量子アニーリング方式に関する実用性検証における技術的成果を発表した。これによると、機械学習では精度向上を、ストレステスト業務では効率化を確認できたという。

  • オーバーサンプリングのイメージ

  • 不正検知の再現率の向上効果

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同検証は、3社が2020年2月から行っているもの。今回発表した成果のテーマは機械学習及び、ストレステスト業務の効率化の2点。

機械学習に関して、金融取引における正常/不正を識別するAI(人工知能)モデルを構築する際に、正常に取引が行われた学習データ(負例データ)と不正が行われた学習データ(正例データ)が必要だが、不正の事例は実際にはほとんど存在しないため、正例データは少量しか取得できないという。

この問題への対処法の1つとして、機械学習フローの前工程である「データ取得」において、実際の正例データを基に「実在しないが確からしい」正例データを大量に生成する操作(オーバーサンプリング)を行うことがあるとのこと。

今回の検証では、量子アニーリングが持つ規則性の無い数値を生み出せる特性を利用して、統計的に確からしい正例データ生成器を開発し、これによりオーバーサンプリングを行ったという。不正取引を識別するAIモデル(主にデータの分類に用いる、決定木と呼ばれるモデル)の学習にオーバーサンプリングしたデータを適用した結果、従来手法であるランダムやSMOTEと比較して再現率(検出できた不正取引の割合)の向上に寄与することも確認したとしている。

具体的には、不正取引の再現率を比較した結果、同一のAIモデルでも学習データの品質相違から、量子アニーリングを使用する手法による再現率がランダムより6~15%、SMOTEより3~6%程度向上することを確認したとのことだ。

  • 量子アニーリングによる調整イメージ

ストレステストは、SMBCグループの業務戦略策定において、重要なリスクを織り込んだシナリオに基づいて行い、資本の健全性を検証しているという。

このシナリオに含む経済指標は数理モデルを利用したソフトウェアによって推計するが、専門家などの人的判断による推定も勘案しているとのこと。そのため、推定した一部の指標とその他の関連指標が整合的になるように手作業で調整する必要があり、従来はこの作業に多くの時間を費やしていたとしている。

今回の検証では、この調整を最適化問題として定式化し量子アニーリングの手法を用いて解くことで、調整作業を効率化したという。その結果、実務で使用可能な精度の解を得るために必要な時間が、従来の方法に比べて約6分の1に短縮できることを確認したとのことだ。

今回の技術的成果について3社は、関連する学会・研究会への発表を行い、量子ソフトウェア開発の発展にも貢献していく予定という。さらに、引き続き機械学習への応用や金融資産の価格変動リスク予測など、量子コンピュータの業務活用に直結する重要性が高いテーマに取り組み、量子ソフトウェア開発と検証を通じて、さらなるサービス向上を目指すとしている。