東北大学は2月22日、約3億8000万年前から約3億6000万年前の古生代デボン紀後期において発生した生物大量絶滅において浅海で堆積した岩石を分析した結果、火山活動で生成される有機分子「コロネン」と水銀との同時濃集が起きており、火山活動が主要因として同大量絶滅が発生したと結論づけたと発表した。また、絶滅規模が大きい事件ほど、火山活動規模が大きいことを明らかにしたことも合わせて発表された。

同成果は、東北大大学院 理学研究科 地学専攻の海保邦夫教授(現:東北大名誉教授)らの研究チームによるもの。詳細は、国際誌「Global and Planetary Change」に掲載されるに先立ち、電子版で公開された。

過去5億2000万年の間に、5回の大量絶滅が起きたと考えられており、それらは“ビッグファイブ”と呼ばれている(大量絶滅の回数を6回とする研究者もいる)。今回の古生代デボン紀を除いたビッグファイブの顔ぶれは、約4億4400万年前の古生代オルドビス紀末、約2億5000万年前の古生代ペルム紀末、約2億年前の中生代三畳紀末、約6500万年前の中生代白亜紀末である。これらの絶滅規模は差があるが、最大のペルム紀大量絶滅は90%以上といわれている。大量絶滅の度に地球環境が激変したことは間違いなく、地層や出土する化石の種類などから確認されている。

ビッグファイブの中でも最大といわれるペルム紀大絶滅は、その主要因が長らく明確ではなかったが、それを海保名誉教授らが大規模火山噴火と特定できる確たる証拠を発見。それが、6環の芳香族炭化水素のコロネンという有機分子の濃集と水銀の同時濃集だ。その発見と原因特定についての詳細は、2020年11月に東北大より発表がなされた。

参考:東北大、ペルム紀末に起きた史上最大の生物大量絶滅の原因の証拠を発見

そして今回は、そのペルム紀大量絶滅から遡ること約1億2500万年前に起きた、地球史上2度目の大量絶滅であるデボン紀大量絶滅について、海保名誉教授らによる調査結果が発表された。

大量絶滅は約6500万年前の白亜紀末の隕石衝突のように、瞬間的な大カタストロフが発生した場合もあるが、その多くは人の一生と比較した場合、比較にならないほど非常に長い地質学的な時間をかけてゆっくりと起きている。

デボン紀大量絶滅の場合は約3億8000万年前から約3億6000万年前までの間に、1000万年ごとに3回の絶滅事件(絶滅規模小、中、大の順で発生)で構成されている。中規模の際に原始的な魚類の一種である板皮類が、大規模の際には海洋において顎がない魚類である無顎類の大多数が絶滅した。一説によれば、全生物の80%以上が絶滅したという。

海保名誉教授らは今回、南フランスとベルキーと南中国において、当時の浅海だった地域において堆積岩を採取し、堆積有機分子と水銀の分析を実施。ペルム紀大量絶滅で大規模火山噴火が主要因であることを結論づけたものと同じ成分を探したのである。その結果、大量絶滅を記録した地層においてコロネンと水銀の同時濃集が発見された。この結果は、ペルム紀大量絶滅の結果と似ているという。

なお有機分子コロネンとは炭化水素分子であり、有機物の燃焼により生成する。ただし、分子量が同じかより小さい同類の分子より、生成するのに大きな熱エネルギーを必要とするのが特徴だ。つまり、高温で燃焼する必要があるということだ。平均的な森林火災の温度では生成されず、1200℃以上が必要なことから、その熱源は高温マグマか、小惑星もしくは彗星の衝突であると考えられている。そしてこれまでの海保名誉教授らの調査により、コロネンの濃集は大量絶滅時のみ発見されていることも確認済みだ。

コロネンが生成された原因は、デボン紀の場合はペルム紀と同じで高温マグマだ。そのような高温は、マントル下部から発生する「プルーム」と呼ばれる高温マントルの上昇により地殻へと届き、そのマグマが石油・石炭・植物土壌のような堆積有機物を飲み込むことで、それらに含まれる炭化水素がコロネンに変わるのだという。また水銀は、それらの化石燃料から出ると推測されている。

またプルームの上昇はコロネンの生成だけでは終わらない。岩石が加熱されることで、CO2、CH4(メタン)、SO2(二酸化硫黄)ガスが発生。それらが地中に溜まり続けて圧力が限界を超えたとき、大噴火が始まるのだ。その結果、コロネンと水銀が成層圏まで噴き上がり、そして風に乗って世界中にばらまかれていったのだという。

また3種類のガスのうち、SO2ガスは大気中で硫酸エアロゾルに変化することで太陽光を遮断。結果、地球全域において寒冷化をもたらした。日光を遮られて陸上の多くの植物が中規模と大規模の絶滅事件時に絶滅。それに伴い食物連鎖も崩壊し、多くの動物たちも絶滅していったものと考えられる。

植生の崩壊は陸上だけでは収まらず、海洋生物にも大打撃を与えることとなった。植物がなくなったことで大量の土壌が海洋に流出し、海洋環境が激変。それによって海洋生物が絶滅に追いやられていったのである。これは、地球史上で最初の植生崩壊による土壌流出事件だという。

また寒冷化と入れ替わる形で、温室効果ガスであるCO2とCH4ガスによる長期的な地球温暖化が引き起こされていった。こうして、環境が変わり続け、それに対応できなかった生物たちは絶滅していくこととなったのである。これらのシナリオは、ペルム紀大量絶滅とほぼ同じ展開だ。

また、デボン紀大量絶滅の主要因となった大規模火山活動が発せした地域は、現在のシベリアと東ヨーロッパで起きたという(大陸移動のため、現在と同じ座標ではない)。ペルム紀の大規模火山活動も現在のシベリアで発生しており、同地域は大規模噴火が起きやすい構造なのかもしれない。

ビッグファイブが起きたからくりは、白亜紀末の大型隕石の衝突によるものしか明確にはわかっていなかった。しかし、半年に満たない間に海保名誉教授らの調査研究成果が報告され、ペルム紀大絶滅に続いて、デボン紀大絶滅も大規模火山噴火によるものであることがわかってきた。

ペルム紀の大規模火山活動は数百万年続いたとされるが、環境を激変させたことからも想像できるように、おそらくデボン紀の大規模火山活動も同様に長期間に及んだことだろう。現代の地球でそのような規模の大噴火が起きないことを祈りたい。

  • デボン紀大量絶滅

    デボン紀大量絶滅の模式図。このときの大規模火山活動は、シベリアと東ヨーロッパの2地域で発生したという (c) Kunio Kaiho (出所:東北大学プレスリリースPDF)