東京大学や大阪国際がんセンターなどの共同研究チームは、Go Toトラベル利用者は、利用経験のない人に比べて、過去1か月以内に発熱、咽頭痛、頭痛、嗅覚/味覚異常をより多く認めていたことが確認されたと発表した。

同研究は、東京大学大学院医学系研究科の宮脇敦士 助教、大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部の田淵貴大 副部長、神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科の遠又靖丈 准教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の津川友介Assistant Professorらによるもの。詳細は、12月4日付けで、プレプリントサーバー「medRxiv」に公開された(査読前原稿)。

日本で2020年7月22日より開始された飲食業や観光業支援事業であるGo Toトラベル。一部では、同事業が新型コロナウイルス感染症の感染拡大を増悪させているのではないかと懸念されていたが、その関係性は十分に分かっていなかった。

そこで研究チームは、Go Toトラベル利用者の新型コロナ感染リスクの解明に向け、15−79歳を対象とした大規模なインターネット調査(2020年8月末〜9月末に実施)を実施。2か月以内のGo Toトラベルの利用経験と、過去1か月以内の新型コロナを示唆する「発熱」、「咽頭痛」、「咳」、「頭痛」、「嗅覚/味覚異常」の経験の割合との関連性の調査を行った。

その結果、性別・年齢・社会経済状態・健康状態などの影響を統計的に取り除いた上で、発熱が利用者4.8%、非利用者3.7%、咽頭痛が利用者20.0%、非利用者11.3%、咳が利用者19.2%、非利用者11.2%、頭痛が利用者29.4%、非利用者25.5%、嗅覚/味覚異常が利用者2.6%、非利用者1.7%と、Go Toトラベルを利用したことがある人は、利用経験のない人に比べて、より多くの人が症状を認めていたことが判明した。

研究チームでは、Go Toトラベル事業の利用者は非利用者よりも新型コロナに感染するリスクが高いことを示す結果であり、Go Toトラベル事業が新型コロナ感染拡大に寄与している可能性があることが示唆されたと説明している。

また、その有症率を年齢および基礎疾患の有無で層別化した分析も実施。その結果、Go Toトラベル利用経験のいる有症率の違いは、65歳以上の高齢者よりも、65歳未満の非高齢者が顕著であったほか、基礎疾患の有無によって、Go Toトラベル利用の有症率との関係は変わらないことが示されたとのことで、高齢者や基礎疾患のある人をGo Toトラベルの対象外とする方法は、新型コロナの感染拡大のコントロールにあまり有効ではない可能性が高いとしている。

今回の結果を踏まえ研究チームでは、「Go Toトラベルの利用が直接的に新型コロナ症状の増加につながったという因果関係は断定できない」、「Go Toトラベルの利用と新型コロナ症状の発生率との間の時系列的関係が不明」、「新型コロナ症状を持つ人が、必ずしも新型コロナに感染しているわけではない」、「新型コロナ症状を持つ人が、その原因としてGo Toトラベルの利用を思い出しやすい可能性(思い出しバイアス)」などといった点から研究としての限界があるとしつつも、現在のGo Toトラベルのやり方は新型コロナ感染リスクの高い集団にインセンティブを与える形となっており、感染者数の抑制のためには、対象者の設定や利用のルールなどについて検討することが期待されるとしている。また、今後も研究を継続していく予定で、より厳密なGo Toトラベルの影響の分析や他のGo To事業の感染への影響の調査を行っていくことで、どのような形のインセンティブ事業が感染拡大を防ぎながら経済活動を活性化させることができるか、必要な知見を明らかしていきたいとしている。