産業技術総合研究所(産総研)と東ソーの2者は11月27日、二酸化炭素(CO2)と砂などのケイ素化合物を原料として、ポリウレタンやポリカーボネートの原料となる「ジエチルカーボネート」を効率的に合成する触媒技術を開発したと共同で発表した。
同成果は、産総研 触媒化学融合研究センター ヘテロ原子化学チームの深谷訓久研究チーム長、Wahyu S. Putro研究員、同・触媒固定化設計チームの崔準哲研究チーム長、東ソーの研究者らの共同研究チームによるもの。詳細は、Chemistry Europeの発行する「ChemSusChem」誌のオンライン速報版で公開された。
CO2の排出量を削減していくため、CO2を炭素資源として回収・再利用し、さまざまな有用製品として活用する「カーボンリサイクル」に向けた技術開発が重要視されている。経済産業省 資源エネルギー庁が2019年6月に発表した「カーボンリサイクル技術ロードマップ」によれば、CO2の再利用としては、化学品、燃料、鉱物などが考えられている。さらに、化学品は、含酸素化合物(ポリカーボネート、(ポリ)ウレタンなど)、バイオマス由来化学品、汎用物質(オレフィン、BTXなど)などが想定されている。
ポリウレタンとはスポンジなどに利用され、ポリカーボネートはCDやDVDなどの表面などに使われるなど用途が広く、身の回りの至る所で見かける化合物だ。そうしたポリウレタンやポリカーボネートの原料となる含酸素化合物を、CO2から合成する技術としては、これまでCO2とアルコールを原料とする反応の検討が発表されている。しかし、目的物の生成効率や反応に用いる触媒の寿命に課題があり、実用化に向けて製造プロセスの低コスト化が実現できる技術が求められているところだ。
そうした背景を受けて産総研と東ソーは、CO2を原料として有用化学品を製造するための共同研究を進めている。CO2と組み合わせて反応させる原料に低コスト・低環境負荷・再生可能な物質を活用すると同時に、高効率な合成を実現する触媒開発を目指した研究である。
また産総研はこれまで、東ソーとの共同研究とは別に、砂や灰などの安価で豊富なケイ素資源(SiO2)からケイ素化合物「テトラアルコキシシラン(オルトケイ酸テトラエチル)」を高効率で直接合成する方法を2016年に開発済みだ。今回の共同研究では、このテトラアルコキシシランをCO2と組み合わせ、ポリウレタンやポリカーボネートの原料となる有用化学品のジエチルカーボネートを高効率に合成する技術の開発に挑んだという。
ジエチルカーボネートは、ポリウレタンやポリカーボネートの原料のほか、リチウムイオン電池の電解液、塗料や接着剤用の溶媒として幅広く活用されている有用化学品だ。その工業的製造法は、化石資源から誘導したホスゲンを原料としている。
これまで、CO2とエタノールを原料として、ジエチルカーボネートを合成する反応の研究開発は広く行われてきたという。しかしながら、CO2とエタノールとの反応では、目的物であるジエチルカーボネートと同時に副産物として水が生成されてしまうことが課題だった。水はジエチルカーボネートと反応すると、逆反応が進行して原料に戻してしまう厄介な副産物なのである。さらに、反応系中の触媒が加水分解されて活性が失われてしまうなどにより、合成の高効率化が難しかったのである。
今回の研究では、ジエチルカーボネートを合成する際にCO2と組み合わせる原料としてエタノールではなく、水を副生しないテトラアルコキシシランの一種であるテ「トラエトキシシラン」を用いる方法が考案された。さらに、この反応に有効な触媒の「ジルコニウムエトキシド」が見出され、製造プロセスの低コスト化を実現しうる合成方法が開発されたとした。
合成は、CO2とテトラエトキシシランを原料に、10mLの反応容器中に室温で圧力5MPaのCO2を充填。そののち温度180℃で24時間反応が行われ、テトラエトキシシランを基準として51%の収率でジエチルカーボネートが生成されたという。
この反応を200mLの反応容器を用いて20倍にスケールアップしていった時のジエチルカーボネートの収率は58%だった。小スケールの場合と同等以上の反応効率で目的物が得られることが確認された。この反応の副生成物は、テトラエトキシシランが二量化したジシロキサンのみである。
また、ジルコニウムエトキシドの寿命の評価を目的として、その添加量を30分の1に減らしたうえで、72時間反応を行う対照実験も行われた。すると収率は21%に低下したものの、触媒の寿命の指標である触媒回転数は43となった。従来の触媒回転数の最高値は4.3であり、大幅な向上が達成されたのである。その理由としては、ジルコニウムエトキシドを分解する水が副生されず、副生物のジシロキサンが同触媒に対して無害であるため達成できたと考えられるという。
またジシロキサンは、過去に報告されたケイ素資源(SiO2)からテトラエトキシシランを合成する反応と同様に、水酸化カリウムを触媒とし、モレキュラーシーブを脱水剤として用いてエタノールと反応させると、高い収率でテトラエトキシシランへと再生できることも確認された。
テトラエトキシシランは反応後に容易に副生成物から再生可能な原料だ。つまりCO2とテトラエトキシシランを資源とした触媒反応によって、廃棄物のない持続可能なプロセスによるジエチルカーボネートの合成が可能となる。今回の成果は、以前より産総研が取り組んでいる「砂からテトラエトキシシランを合成する技術」と組み合わせることで、CO2と砂という実質的に無尽蔵ともいえる資源から有用化学品を製造する可能性を拓くものであるという。
今後は、より低コストで省エネルギーな製造方法の確立を目指し、反応条件や触媒のさらなる改良を行う計画だ。またスケールアップの検討など、実用化に向けて必要な技術課題の解決を、産総研と東ソーが共同で取り組み、2030年頃までの実用化を目指すとしている。