東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、早稲田大学(早大)、国立天文台の3者は10月27日、国際共同研究プロジェクト「ALPINE(アルパイン)」において、南米チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡」を活用し、初期宇宙で成長途中にある118個の銀河を調査した結果、その多くが大量の塵や金属元素を含んでおり、加えてすでに「回転円盤銀河」となる兆候を示しているなど、従来の予想に反して遥かに銀河が成熟していたことを明らかにしたと発表した。

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    初期宇宙における大量の星間塵を含んだ回転円盤銀河のイメージ。この(画像)では、アルマ望遠鏡を使った電波での観測で示されるように、赤色部分がガス、青および茶色の部分が星間塵を表している。背景は、VLTやすばる望遠鏡の可視光観測データに基づく多数の銀河がはめ込まれている。(c) B. Saxton NRAO/AUI/NSF, ESO, NASA/STScI; NAOJ/Subaru (出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、仏・マルセイユ天文物理研究所のOlivier Le Fèvre氏(ALPINEプロジェクト中心研究者)、同・Matthieu Béthermin氏、米・カリフォルニア工科大学のAndreas Faisst氏、同・Lin Yan氏、同・Peter Capak氏、伊・パドヴァ大学のPaolo Cassata氏、スイス・ジュネーヴ大学のDaniel Schaerer氏、そしてKavli IPMUのJohn Silverman准教授、早大理工学術院総合研究所の札本佳伸次席研究員(国立天文台アルマプロジェクト特任研究員兼任)、デンマーク・ニールス・ボーア研究所の藤本征史研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、ALPINEプロジェクトのWebサイトで公開された。

我々の宇宙は、約138億年前にビッグバンにより誕生し、ビッグバンから数億年して、全宇宙で最初の恒星である“ファーストスター”が誕生したと考えられている。そして銀河はそのさらに数億年後に誕生したとこれまでは考えられてきたが、最近ではファーストスターの誕生とほぼ同時期に銀河の形成が始まったとも考えられるようになってきている。我々の天の川銀河も、宇宙誕生からわずか2億年しか経っていないおおよそ136億年前に形成され始めたと考えられている(諸説ある)。

そして宇宙誕生から10~15億年が経過した初期宇宙の頃が、多くの銀河が急速な成長を遂げた時期とされる。この成長期間において、大量の恒星、星間塵、大量の金属、渦巻き円盤構造といった現在の宇宙で見られる銀河の特徴ができあがったという。つまり、天の川銀河のような銀河がどのように形成されたのかを知るには、初期宇宙にある銀河の研究を行うことが重要だ。

ALPINE(ALMA Large Program to Investigate C+ at Early Times)は、多波長で初期宇宙の銀河を観測する初めての大規模探索プロジェクトだ。銀河のサンプルデータを大量に集めるため、同プロジェクトではアルマ望遠鏡による電波観測のほか、ハッブル宇宙望遠鏡やハワイのケック望遠鏡、欧州南天天文台の超大型望遠鏡(VLT)などの可視光による観測、NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡による赤外線による観測など、宇宙と地上の世界中の観測装置を用いて、初期宇宙における銀河の多波超データが収集されている。

多波長で観測が行われるのは、それぞれ得手不得手があるからだ。可視光や赤外線は、星間塵に隠されていない状態の銀河の星形成の様子や恒星質量の測定に有効だ。その一方で、特に可視光は星間塵などに九州・遮蔽されやすく、さらに濃くなると赤外線ですら見通しにくくなる。

それに対し、アルマ望遠鏡のような電波望遠鏡なら、赤外線よりもさらに長い波長で観測するため、濃い星間塵の奥に潜む天体でも観測が可能だ。今回の観測では、ハッブル宇宙望遠鏡ですら観測できなかった“ハッブルダーク”と呼ばれる濃い星間塵に覆われた銀河を発見することにも成功している。このように、世界中の多波長の望遠鏡が協力してALPINEプロジェクトを現在も実施中で、初期宇宙の銀河の様子に迫っている。今回は、これまで観測された初期宇宙で成長途中にある118個の銀河の分析が行われた。

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    アルマ望遠鏡で観測した初期宇宙のふたつの銀河。銀河は大量の星間塵を含んでおり(黄色の部分)、原始的な状態ではなく比較的成熟していると推測された。加えて、アルマ望遠鏡は銀河における星形成の様子や星の動きを調べるために用いられるガス(赤色の部分)の様子も明らかにした (c)B. Saxton NRAO/AUI/NSF, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), ALPINE team (出所:3者共同プレスリリースPDF)

銀河に多くの星間塵や重元素(一般的に金属元素のことだが、天文学者の定義する重元素は、水素とヘリウムよりも重い元素のことを指す)が含まれる時、その銀河は成熟していると見なされる。ビッグバンで誕生した元素は、水素原子が多く、次いでヘリウム、わずかにリチウムという具合で、それ以降の原子は、すべて大質量の恒星の中で核融合によって誕生した。そして鉄以降の原子に関しては、超新星爆発の衝撃や中性子連星の合体などの衝撃で誕生し、銀河内にばらまかれていったと考えられている。

そのため初期宇宙の銀河は、宇宙誕生からまだ十分な時間が経っていないために多くの星を誕生させる時間がなく、そのことから研究者の多くはこの時代の銀河からは少量の塵や金属元素しか観測されないものと推測していたのである。

しかし、今回観測された118個の銀河のうちの約20%は、すでに非常に多くの星間塵を含んでおり、生まれたばかりの恒星から発せられる紫外光の多くが、星間塵によって吸収されていることが確認された。

後の時代の銀河に含まれる星間塵と比較して、初期宇宙における銀河の星間塵は光を吸収する性質が異なっているという証拠が示されており、銀河における星間塵の特性の“進化”がうかがえるという。同時に、宇宙誕生後10~15億年の間に急速に塵が銀河を覆い隠す様子が初めて示されたとした。このことから、この時代が初期宇宙の銀河における星間塵の成長にとって、重要な時期であることが明らかとなったのである。

さらに、観測した銀河の多くは、回転円盤銀河となる兆候を含む多様な構造を示していることからも、比較的成熟しているものと推測されるという。ちなみに回転円盤銀河が、後に天の川銀河のような渦巻き構造を持った銀河へと成長する可能性がある銀河の初期構造である。

これまで研究者たちは、一般的に初期宇宙の銀河は頻繁に衝突することから、綺麗な構造を持たず、まるで塊同士が衝突事故が起きたような不定形に見えると予想してきたという。しかし今回観測された銀河の中に衝突している銀河はたくさんあるが、それらの銀河の多くは衝突の影響を受けずに規則正しく回転していることが確認された。その中には、銀河円盤で見えている星の4倍にも至る巨大な重元素ガスが、銀河を大きく包み込みながら回転しているものも見えてきたという。

アルマ望遠鏡は以前に、大量の星間塵を含んだ銀河「MAMBO-9」や回転円盤銀河「ウォルフ・ディスク」などを初期宇宙において発見している。それらのような銀河が、初期宇宙では特殊な存在なのか、それとも一般的なものなのかはこれまでの観測からはわかっていなかったが、今回の観測結果から、銀河がこれまで考えられていたよりも早く進化する可能性があることが示されたとしている。一方で、これらの銀河がどのようにして急速な成長を遂げ、なぜ⼀部の銀河がすでに回転円盤を持つのかについてまでは、現時点では解明できなかったとした。

ALPINEプロジェクトは現在も継続中だ。今後もアルマ望遠鏡を含む多波長の望遠鏡を用いて初期宇宙の銀河進化の謎の解明に挑んでいくとしている。