東京大学医科学研究所(東大)は10月22日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の空気伝播に対するマスクの防御効果を調査した結果、マスクの適切な使用が感染予防に重要であるとの知見を得たと発表した。

同成果は、同研究所 感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授、慶應義塾大学、仙台医療センターなどで構成される研究グループによるもの。詳細は米国科学雑誌「mSphere」オンライン版に掲載された。

世界中で猛威をふるい続けている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。感染者との会話や咳などにおける飛沫を媒介として感染が拡大することが分かっているほか、飛沫よりも小さな空気中を漂う粒子であるエアロゾルからもウイルスが検出されており、そうしたものを介した空気伝播が起こる可能性が指摘されてきた。こうした感染を防ぐ手立てとして、マスクの着用が推奨されているが、空気中を浮遊するウイルスに対して、マスクがどの程度の防御効果を持つのかについては、よくわかっていないところも多かった。

そこで研究グループは今回、空中に浮遊する新型コロナウイルスに対して、マスクがどの程度の防御効果を有するのかを調べるために、感染性の新型コロナウイルスw用いてウイルスの空気伝播をシミュレーションできる特殊チャンバーを開発。バイオセーフティレベル(BSL)3施設内にて、チャンバー内にマネキンの首とネブライザーを設置し、新型コロナウイルスを飛沫やエアロゾルとしてヒトの咳と同等の速度で口元から放出できる仕組みを構築し、向かい合ったマネキンにヒトと同等の換気率の呼吸機能を構築し、その吸い込んだ空気に含まれるウイルスの吸い込み量の調査を行ったという。

その結果、ウイルスを吐き出す側と吸い込む側の距離が離れるにしたがってウイルスの吸い込み量は減少するものの、1m離れていてもウイルスを吸い込んでしまうことも分かったという。

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    距離によるウイルスの吸い込み量の変化 (出所:東大医科学研究所Webサイト)

また、吸い込む側に各種のマスクを装着して、同様の調査を行った結果、吸い込み量は布マスクの着用では、マスクなし比で60~80%に、外科用マスクで同50%に、N95マスクを密着して使用すると同10~20%まで抑えられることが分かったという。ただし、N95マスクであっても、隙間をふさいだ密着状態ではない場合、その吸い込み量は密着状態よりも抑制効果が落ちることも分かったとする。

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    マスクの種類によるウイルスの吸い込み量の違い (出所:東大医科学研究所Webサイト)

さらに、ウイルスを出す側にマスクを装着させて噴出させる実験も実施したところ、吸い込む側のウイルス量が大きく低下することも確認したという。

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    感染者へのマスク装着によるウイルスの拡散防止効果 (出所:東大医科学研究所Webサイト)

この結果について研究グループでは、マスクにはウイルスの吸い込みを抑える働きよりも、対面する人への暴露量を減らす効果が高いことを示唆する結果であり、ウイルスを吐き出す側に布マスクまたは外科用マスクを装着させ、吸い込む側に各種のマスクを装着させると相乗的にウイルスの吸い込み量が減少することが分かったとする。

加えて、今回の実験では、定量性を確保することを目的に高濃度のウイルスが噴霧されたが、実際の新型コロナ感染者の呼気にどの程度のウイルスが含まれているかは不明であることから、噴霧されるウイルス量を段階的に減らした実験も実施したところ、吐き出す側がマスクをしていなくても、吸い込む側がマスクを装着していれば、布でも外科用でもN95でも、マスクを透過したウイルスは検出限界未満であったという。

とはいえ、ウイルスの遺伝子自体は、どのマスク着用時でも検出されたともしており、実際の感染者から吐き出されたウイルスがマスクを通過して、感染を引き起こすのかどうかについては今後のさらなる解析が必要だとするほか、マスクのみでは浮遊する新型コロナウイルスの吸い込みを完全に防ぐことができないことが示唆されたともしている。

なお研究グループでは、今回の結果を踏まえ、マスクを密着させて適切に着用することの重要性が示された一方で、マスクの防御効果への過度の信頼を控え、ほかの感染拡大防止措置との併用を考慮するなど、今後の感染拡大防止に向けたガイドラインづくりなどにつながれば、としている。