電子帳簿保存法(電帳法)の令和2年度の改正が10月1日から施行され、キャッシュレス決済の電子明細が証拠として活用できるようになるなど、電子取引を行った場合の電磁的記録の保存要件が緩和された。

コロナ禍においては、在宅勤務にも関わらず経理担当者の出社が余儀なくされたことにより、今般、領収書や請求書を電子化していこうという機運が高まっている。

しかし、電帳法は2015年度のスキャナ保存の対象拡大(3万円以上)、2016年度の(卓上スキャナに加えて)デジカメやスマホによる保存解禁などの緩和は業界でも大きな話題になり、税務署類のスキャナ保存普及に対する期待が高まったが、思ったほど普及しなかったのが実情だ。

  • 電子帳簿保存法(電帳法)改正の流れ(資料提供:新経済連盟)

では、なぜ規制が緩和されたにも関わらず普及しなかったのか? フィンテック協会理事の木村康宏氏(新経済連盟でも活動)に話を聞いた。

  • フィンテック協会理事の木村康宏氏

    フィンテック協会理事の木村康宏氏

中小企業が電帳法の適用を申請しない理由

下図は、新経済連盟が今年、クラウド会計ソフト利用の中小企業経営者・経理担当者を対象にした実施(8月5日~7日)した、電帳法やスキャナ保存の申請をしない理由を調査した結果(回答者1,170名)だ。

  • 中小企業が電帳法のスキャナ保存を申請しない理由(資料提供:新経済連盟)

これによると、「税務署長に申請するのが手間・時間がかかる」、「制度が複雑で社内の理解を得るのが難しい」、「定期検査が終わるまで紙を保存しておく必要がある」という3つが多い(複数回答あり)。

スキャナ保存は便利ではない

企業がスキャナ保存を利用しない理由について木村氏は、「端的に言えば、スキャナ保存が便利ではないということになります」と語る。

具体的には、「領収書にフルネームで署名する必要がある」、「3日以内にタイムスタンプを付与する必要がある」という要件がハードルになっているという。

  • 現状のスキャナ保存のフロー(資料提供:新経済連盟)

とくに、精算回数が多い営業部門から、「これまで紙の場合は署名が必要なかったのに、なぜ署名が必要なのか」という声があり、また、月1回まとめて精算するという習慣になれているため、3日以内にタイムスタンプを付与することに抵抗があるという。

では、電子化した領収書を保存したあと、原本の紙を捨てられるのかというと、それもできないという。

「業務フローが適切に行われているかのチェックを定期的に行うことになっており、それまでは紙の原本を保存しておく必要があります。折角制度を利用し、電子データで管理していこうとしても、結局、紙の原本は保存する必要があるので二重管理となり、現場にとっても経理にとってもメリットがない制度となっています」(木村氏)

法人用のクレジットカード課題

10月1日の電帳法改正を受けて、法人用のクレジットカードを各社員に持たせて、電子的な明細で経費精算していこうと動きもあるが、これにも課題が残っているという。

「クレジットカードの利用明細だけだと、社内の経理処理を行うのに必要なデータが足りない場合があるという問題があります。例えば、利用した店舗名ではなく、入居しているビル名しか記載されないケースがあったり、本体価格と税額が合算表示で、税率が10%なのか。軽減税率の8%なのか判断できない場合があります。レシートであれば、こういった情報も記載されています。実際に経理処理を行う場合は、タクシー代の精算等シンプルなケースであれば電子明細で十分ですが、交際費等に関してはこういった細かな情報まで補足しないと正当な利用であるか判断できません。また、法人税の損金に算入していいかの判断もしづらいでしょう」(木村氏)

2023年からのインボイス制度が経理実務の負担に

木村氏は、2023年から始まるインボイス制度も、企業の経理実務にとって大きな負担になると指摘する。

「これまで3万円未満の部分は帳簿に記載すれば領収書を保存しなくてもよかったものが、2023年から始まるインボイス制度では、その(消費税法上の)例外もなくなります。より厳格な管理が求められ、企業の経理事務負担は増大します。経理担当が少ない中小企業では、より厳しい環境になると思います。」(木村氏)

  • インボイス制度による保存対象業務の拡大(資料提供:新経済連盟)

普及させるためにするべきこと

では、スキャナ保存を普及させるためには、どうすればいいのか? 木村氏は、大胆な規制緩和が必要だと語る。

「そもそも税法上、証拠として保存するのが原則紙である点から変える必要があります。また、データ保存に対するインセンティブを強化するのも1つあると思います。スキャナ保存でいえば、自署やタイムスタンプ付与の3日以内規定を廃止・緩和することが重要です。例えば、金融機関の電子明細と紐づく業務フローになっていれば、スキャナ保存の複雑なルール適用なしに電子データで保存してもよいというのも一案だと思います。海外でもここまで細かなルールで実施しているところはないと思います」(木村氏)

  • 新経済連盟が求める規制緩和(資料提供:新経済連盟)

菅政権では脱ハンコを謳うなど新しい働き方に繋がる規制緩和を進めているので、この領域での規制緩和が進むことを願いたい。