東京工業大学(東工大)発ベンチャー企業のつばめBHB(東京都中央区)は、オンサイト型アンモニア製造システムの事業モデルの確立を進め、事業化パッケージを近々前進させる見通しだ。

東工大元素戦略センターの細野秀雄元素戦略センター長・栄誉教授の研究成果を基に、2017年4月に起業したつばめBHBは、アンモニアを低温・低圧で合成するオンサイト製造装置の実用化・事業化をこれまで図ってきた。その事業化では設計エンジニアリングなどの基本設計技術など一括して提供するEPC(設計エンジニアリング、調達、建設を一括契約)事業モデルのビジネスプランを練り上げ、商用化への新しい事業化ステージに入ることを目指し始めている。

同社は、アミノ酸や農業用肥料などの化学原料をつくる基本物質のアンモニア(NH3)を低温・低圧で合成するオンサイト生産技術の事業化を図っている。このため、同社の主力部隊を東工大のすずかけ台キャンパス内に設けたR&Dセンターに集約し、事業化を進めてきた(東工大元素戦略センターの比較的近く)

つばめBHBの株の45.1%を持つ大手株主の味の素でのオンサイトアンモニア生産プラントの事業化を図ると同時に、そのオンサイトアンモニア生産プラントの基本システムを外販するEPC提供を基に、触媒販売や生産ノウハウのライセンス料を得る事業モデルを築きつつある。

同社は味の素の川崎工場内に、オンサイトアンモニア生産プラントのパイロット第1号機を基に、運転条件の実績を蓄える一方で、このオンサイトアンモニア生産プラントの基本システムの外販ビジネスの確立を図ってきた。

つばめBHBの株の53.8%を持つ筆頭株主であるUMI(ユニバーサル・マテリアル・インキュベーター、東京都中央区)が目指す化学産業の革新を図る狙いから、オンサイトアンモニア生産プラントの外販するビジネスモデルの確立を図ってきた。

同社の横山壽治執行役員CTOは「現在は、アンモニアは農業用肥料向けが84%と大部分を占めているが、オンサイトアンモニア生産プラントが実用化すると現在13%の化学工業用途などが増える可能性がある」と説明する。

  • つばめBHB

    つばめBHBの横山壽治執行役員CTO

さらに、「現在はアンモニア生産コストが高い試薬向け・医療品向けの利用が増える可能性もある上に、水素(H2)を運搬する手段として着目されているNH3による利用法も事業化の可能性が浮上する」という。

現在のオンサイトアンモニア生産プラントで用いている触媒は、Ru(ルテニウム)利用のエレクトライド(C12A7、12CaO・7Al2O3酸化物)系である。このRu利用のエレクトライドは、元素戦略センターの細野秀雄元素戦略センター長・栄誉教授の研究成果である。

当然、その後も元素戦略センターは新しい触媒の研究開発を続けてきた。2020年7月に公表したLaN(窒化ランタン)化合物上にNi(ニッケル)ナノ粒子を固定化したNi/LaNという新触媒もその1つだ。

元素戦略センターで新しい触媒の研究開発を続けてきた叶天南(Tian-Nan Ye)特任助教、同 北野政明 准教授、細野秀雄 元素研究戦略センター長・栄誉教授によると、「このNi/LaNという新触媒の存在自身は2012年ごろにはつかんでいたが、その機構の解明に時間をかけた」と語る。

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    左から元素戦略センターの細野秀雄 元素研究戦略センター長・栄誉教授、同 北野政明 准教授、叶天南(Tian-Nan Ye)特任助教

元素戦略センターは、オンサイトアンモニア生産プラント向けに新しい触媒を今後も開発し続けるが「元素戦略センターはオンサイトアンモニア生産プラント事業化の新しい経路を探索し続けるが、事業化の解は企業側の選択になる」と、「研究開発と事業化の仕組みを切り分けて考えている」という。