国立極地研究所(極地研)、産業技術総合研究所(産総研)、茨城大学の3者は9月2日、地質時代「チバニアン」の名前の由来となった千葉県市原市の地層を分析したところ、直近の地磁気逆転である「松山-ブルン地磁気逆転」では約2万年間にわたって地磁気が不安定であったことが示されたと発表した。

同成果は、国立極地研究所地圏研究グループの羽田裕貴 特任研究員(現・産総研 地質情報研究部門平野地質研究グループ産総研特別研究員)、同・菅沼悠介 准教授、茨城大学理学部の岡田誠 教授、同大学大学院理工学研究科の北村天宏 大学院生らの共同研究チームによるもの。詳細は、独学術誌「Progress in Earth and Planetary Science」に掲載された。

大きさが同じN極とS極が作る磁場を双極子磁場と呼び、現在の地球もおおむね双極子磁場と見なされている。地球の双極子磁場の向きは過去に幾度となく逆転を繰り返しており、直近の逆転は約77万年前に発生した「松山-ブルン地磁気逆転」である。地磁気は、地球内部の核の対流に起因するダイナモ作用によって生じると考えられているが、詳細な発生メカニズムや、地磁気逆転の仕組みは未だに解明されていない。

堆積岩や溶岩からなる地層は、それらが形成された当時の地磁気の情報(古地磁気)を記録していることで知られる。そのため、地層に記録されている古地磁気を調べることで、地磁気逆転の過程を知ることが可能だ。詳細な古地磁気記録は、地磁気逆転の仕組みを解明するためのスーパーコンピュータを使ったダイナもシミュレーションの精度向上にもつながり、地磁気逆転の発生メカニズムの解明にもつながっていく。

これまで、約77万年前から約12万6000年前にかけての地質時代「チバニアン」の名称の由来となった千葉県市原市の地層「千葉複合セクション」の分析から、松山-ブルン地磁気逆転前後の地層での古地磁気方位や古地磁気強度の記録が報告されている。ただし、千葉複合セクションの一部の地層においてはまだ古地磁気分析が実施されていないため、数万年にわたる松山-ブルン地磁気逆転の全体像は明らかとなっていなかったのである。

そこで共同研究チームは今回、千葉複合セクションの一部である養老田淵セクションと養老川セクション上位の地層を対象にして新たに古地磁気分析を実施。松山-ブルン地磁気逆転の連続的かつ詳細な古地磁気記録が得られたという。そして松山-ブルン境界の地層上の位置が、養老田淵セクションの白尾火山灰層の1.6m上位となる結果が得られたとした。

その結果も含め、千葉複合セクションのほかの地層と田淵地区で掘削されたボーリングコアで確認された松山-ブルン境界の位置は互いによく一致しており、それらの平均年代値が77万2900年前(±5400年)と見積もられたのであった。

また、新しい古地磁気データと従来のデータを組み合わせた結果、79万年前から75万年前までの4万年間にわたる連続的な古地磁気方位と古地磁気強度の記録の全体像が構築された。その結果、松山-ブルン地磁気逆転前後の少なくとも2万年間、双極子磁場以外の磁場成分(非双極子磁場)が双極子磁場よりも強くなっており、地磁気が不安定な状態であったことが判明したのである。

研究チームは今後、地層に含まれる海洋微生物や花粉の化石の種類や量を古地磁気分析と同じ時間分解能で解析することで、地磁気逆転が環境や生物に与える影響などを明らかにできるとしている。

  • チバニアン

    上段左の図と中段右のグラフは千葉複合セクションの先行研究と今回の研究で得られたデータが統合された、松山-ブルン地磁気逆転前後の古地磁気記録。(上段左)見かけ上の地磁気極の移動の様子。色丸は地磁気極が自転軸の北極あるいは南極から外れている年代。(中段右)相対古地磁気強度とみかけの地磁気極の緯度。色丸は左の地図と対応している。下段左の画像は、千葉複合セクションの一部である養老川セクション上部の様子 (出所:国立極地研究所Webサイト)