深夜になると、ついつい観てしまうテレビの通販番組。そのテレビ通販業界において大きな変化を生み出したパイオニア的企業のひとつが、ジュピターショップチャンネルだ。1996年に創業した同社は、日本初となるショッピング専門チャンネル「ショップチャンネル」を開局。これまで主にテレビCMやインフォマーシャルとしての存在だったテレビ通販を、視聴者にとって魅力的なコンテンツとして成立させた。現在では競合他社も多数登場し、市場の活性化を生み出しているのはご存じだろう。

では同社では、ビジネスにおいてどのようにデータを活用し、マーケティング施策を行っているのだろうか。マーケティング部 DBマーケティンググループ長の池田大輔氏に話を聞いた。

  • ジュピターショップチャンネル マーケティング部DBマーケティンググループ長の池田大輔氏

    ジュピターショップチャンネル マーケティング部 DBマーケティンググループ長 池田大輔氏

創業時から実践してきた、データ活用の基本構想

1週間の放送で、およそ500点のアイテムを紹介するショップチャンネル。BS、CS、ケーブルテレビ、地上波などを合わせた視聴可能世帯数は全国で3,000万世帯を超え、2019年度は1,634億円という過去最高の売上を記録した。池田氏によると、同社では創業時から顧客情報、顧客属性情報、購買履歴などのデータを、番組作りやマーケティング施策に活かしてきたのだという。

全社的なデータ基盤はシステム部門が一元的に管理を行い、そこには顧客の購買履歴、会員情報、顧客属性などのデータと共に、コールセンターの問い合わせ履歴、ECサイトの閲覧履歴、物流倉庫の在庫情報、番組視聴率など部署ごとに独自のデータも格納。ひとつのデータ基盤にまとめたデータを、マーケティング、番組編成、売上予測、物流管理などさまざまなチームで活用しているのだという。

「マーケティング部門では、主に顧客基盤の維持拡大と顧客のライフタイムバリュー(LTV)の向上を主眼に置き、購買実績やCRMなどのデータを活用しながら、データ分析チームと施策の企画検討チームが連携してマーケティング施策を推進している」と池田氏。

例えば、リピート購入の多いロイヤルカスタマーはどのようなカテゴリーの商品に関心を示すか、どういった商品を訴求すれば高い集客力が見込めるか、どのような商品ならば集客力は見込めなくても注文数を伸ばせるかなどを、過去の実績を分析することによって施策に活かしているのだ。

企業のデータマーケティングにおいては、マーケティング部門が社内の協力を仰ぎながらデータの一元管理を主導し、全社的な活用に舵を切っていくことが多いが、同社では創業時からデータ基盤をビジネスの中核に据えていた点が興味深い。池田氏によると、データ基盤はこれまで何度も改修を繰り返し、2019年には本格的にクラウド基盤に移行。社内のデータを集約してデータレイク化し、より柔軟にデータ活用できる環境を整えたという。

顧客データと機械学習による行動予測によって施策を的確にターゲットに届ける

池田氏によると、同社ではこうしたデータ基盤を活用することによって、新規顧客獲得のためのキャンペーン展開やクーポン配布、既存顧客のリテンションやロイヤルカスタマーとのエンゲージメント構築を推進しているという。ROIを重視しつつも、競合他社との差別化をはかるべく「様々な仮説をもとに、やれそうなことは何でもトライしている」と池田氏は語る。

例えば、今回のシステム改修と同時に、同社ではマーケティングオートメーションのツールである「Aimstar(エイムスター)」を導入。購入履歴や顧客属性の分析から機械学習予測モデルによって「どういう人が割引施策で購入してくれるのか」を分析し、対象となるセグメントの顧客に対して割引クーポンと番組ガイドを送付したのだという。「施策に対してどのような顧客ならば動いてくれるのか」を事前に予測しながら施策を打ったことによって、ROIは従来の倍になったのだそうだ。

「特定の顧客層に送付すると売上のリフトが見込めることや、特定のエリアに居住している人は割引券に強く反応してくれることなどが、施策から見えてきている。データによる顧客分析から様々な発見を生み出し、マーケティングオートメーションのアルゴリズムを調整していきたい」(池田氏)

  • ショップチャンネルにおけるデータ活用について語る池田氏

加えて、同社で推進していきたいのが、若年層へのアプローチだ。ショップチャンネルはテレビでの番組展開が最大のタッチポイントとなっているが、顧客層は50代から70代で全体の87%を占める。若年層のテレビ離れなどの影響もあって一般的なネット通販利用者の年齢分布と比較すると顧客の高齢化が顕著となっており、中長期的なビジネス戦略の中では若年層の取り込みが課題になっているのだ。

「新規顧客の年齢層や既存顧客の平均年齢は着実に上がっており、下がる要素がない。高齢世代の視聴者に気軽に利用していただける場としての価値は大事にしながらも、若年層へのアプローチについて危機感をもって対応を始めている」(池田氏)

コロナ禍によって、24時間生放送が止まった

最後に、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大の影響についても話を聞いた。現在、さまざまな産業で大きな影響が出ているが、これまでスタジオでの24時間生放送を展開してきたショップチャンネルにとっても例外はない。池田氏によると、同社ではスタジオでの感染リスク軽減を最優先に考え、感染対策を万全にしたうえで生放送の時間を最短で7時間まで短縮。残りの時間は録画放送に切り替えたという。6月5日からは生放送の時間を16時間に拡大しているが、24時間生放送の見通しは取材時点では立っていない。

  • スタジオでの生放送の様子(写真提供:ジュピターショップチャンネル)

「時間内で紹介できる商品点数が減少したことによって、売上もやや減少している。しかし、食品や日用品、空気清浄機など、コロナ禍だから売れたと言える商品も多い。16時間の生放送でどのようにして売上を最大化できるか、録画時間にどのようなマーケティング施策が打てるのかなど、データを活用しながらチャレンジを続けていきたい」(池田氏)

データを活用してコロナ禍を生き抜くマーケティング戦略にチャレンジしているショップチャンネル。6月からは、特定のロイヤルカスタマーのみに展開してきた送料定額サービス(半年ないし1年の送料を定額で支払うサービス)を広く一般にも展開するという。データ分析によりサービス加入者の売上が伸びたことが立証できたことにより、拡大に踏み切ったのだそうだ。

最後に池田氏に、今後データを活用したマーケティング展開について抱負を伺った。

「私自身、マーケティング部門は会社とお客様の架け橋となるような存在になるべきと考えています。日頃からショップチャンネルをご覧になっているお客様がどうやったらもっと楽しめるか、もっと好きになってくれるかという視点を何よりも大切にしています。昨年度の大規模なシステム改変でマーケティングオートメーションや機械学習アルゴリズム等、我々としても打ち手を増やすことができましたが、最終的には、人間である我々社員一人一人がお客様視点で考えることがなによりも重要です。今後もデータを活用しながら、ショップチャンネルの商品や番組、顧客サービスがより多くのお客様にご支持いただけるように会社の皆と取り組んでいきたいと考えております」(池田氏)

  • 今後のデータ活用に向けた抱負を語る池田氏