ispaceは8月20日、オンライン記者会見を開催し、シリーズB投資ラウンドにおいて30億円の資金調達を実施したことを明らかにした。民間による月面探査プログラム「HAKUTO-R」を推進する同社は、ランダー(着陸機)開発を目的とし、すでにシリーズAで103.5億円を調達しており、これで累計の調達金額は約135.5億円となった。

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    ispaceファウンダー&代表取締役の袴田武史氏。左にあるのはランダーの1/5スケールモックアップ (c)ispace

ランダーの大型化にも活用

同社は、2022年に最初の月着陸(ミッション1)を実現することを目指している。以降、2023年にはミッション2、2024年以降にミッション3と、継続的にランダーを月面に送り込む計画で、現在、ランダーの開発を進めているところだ。今回調達した30億円は、以下の用途に使用するという。

  • ミッション1ランダーの最終開発投資
  • ミッション2ランダーの先行開発投資
  • ミッション3ランダーのサイズアップを見据えた先行開発投資

先日最終デザインが公開されたミッション1のランダーは、幅2.6m/高さ2.3mというコンパクトさが特徴。このサイズでも約30kgのペイロードの搭載が可能だが、今後の輸送需要の高まりを想定し、同社はミッション3以降の大型化を検討、このときのペイロードは100kg~150kg以上になる見込みだという。

今回の資金調達は、IF SPV 1号投資事業組合をリード・インベスターとし、宇宙フロンティアファンド、高砂熱学工業、三井住友海上火災保険の4社を引受先とする第三者割当増資により実施された。宇宙フロンティアファンドは宇宙特化型のファンドとして5月より運用を開始したばかりで、これはその第1号案件になるという。

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    出資の4社。高砂熱学工業と三井住友海上火災保険はHAKUTO-Rのパートナー企業でもある (c)ispace

ispaceファウンダー&代表取締役の袴田武史氏は、「投資家からの期待の高さを実感している」とコメント。「今回の資金調達をさらなる起爆剤として、宇宙資源産業の創出と、日本の民間宇宙利用による産業化を加速させていく」と意気込みを述べた。

3本目の柱「月面データ事業」

新ビジョン「Blueprint Moon」のイメージ動画

また同日、ispaceからは、新たに展開する「月面データ事業」をイメージしたビジョン「Blueprint Moon」が公開された。この新事業は、月のデータ(画像データ、環境データ、テレメトリ、資源情報等)を収集・加工し、顧客に提供するというものだ。

顧客としては、国の宇宙機関、大学・研究機関、民間企業を想定する。同社はまだランダーを開発中のため、月面で独自に取得したデータは持っていないが、当面はNASAやJAXA等の公開データを活用する方針。ミッション1のランダーにはカメラシステムを搭載しており、探査開始後はそうした独自データも統合していく。

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    月面のデータには様々なニーズがある。これらを提供して活用してもらう (c)ispace

将来、民間月面開発が活発化すると予想されているものの、非宇宙企業にとっては、参入へのハードルは依然として高い。まずは有益なデータを提供することで、青写真(Blueprint)として活用してもらい、参入しやすくする。同社ディレクター&COOの中村貴裕氏は、「あらゆる産業界に月の青写真を作るチャンスがある」とアピールする。

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    ispaceディレクター&COOの中村貴裕氏 (c)ispace

すでに、ツールやアプリケーションの開発を開始。サービスとしては、同日よりスタートしているということだ。同社は月面データ事業を「重要な収益の柱になる」と期待。今後は、従来のペイロード事業とパートナーシップ事業と合わせた3つをコア事業として、ビジネスを推進していく構えだ。