東京農工大学は、タンパク質の凝集を解析するための格子モデルを応用して、人の移動制限(ロックダウン)の時期や範囲などによって新型コロナウイルスの感染者数の増大を定性的または相対的に予測することを可能としたモデルを開発したことを発表した。
同成果は、同大工学部の黒田裕 教授および松沢佑紀 大学院生、安東紫帆 大学院生、同大 農学部の水谷哲也 教授、順天堂大学の鶴井博理 博士、名古屋工業大学のダミエンハール博士らによるもの。詳細は医学分野のプレプリントサービス「medRxiv」に掲載された。
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に対し、各国政府は人同士の接触機会を減らすための移動制限政策、いわゆるロックダウンを実施、一定の成果を出しつつも、社会経済活動を継続するためにロックダウンの制限緩和を行うなど、手法の模索を進めている。
今回研究グループが開発したモデルはタンパク質の凝集を解析するために用いている格子モデルの粒子を「タンパク質」から「人」に換え、粒子の状態に影響する「タンパク質間の分子間相互作用」を「感染確率」に換え、人を一次元の格子上で移動させ、同じ格子点に2人が配置されると、ある確率で感染が起きるようにしたもの。パラメーターとして、「ウイルス感染確率」、「ウイルス検出感度」、「人の移動範囲」の3つを用いており、シミュレーションの結果、一般的に言われる通り、完全な移動制限が感染者の数がもっとも少ない結果となったとする。
しかし、感覚では想定しにくい傾向として、例えば、個人の移動が臨界値以下では感染確率がゼロであり、臨界値を超えると感染のリスクが急速に人口密度に依存する一定の値に達することも判明したほか、同モデル上では発症患者の検出率が40%を超えるよう検疫を組み合わせる必要があり、ロックダウンだけでは効果的ではないことも判明したとしている。
また、発症前患者を20%程度の確率で検出・隔離できれば、対策を打たないときより感染者数は10分の1以下に減少することも示されたほか、ソーシャルディスタンスやマスク着用によりウイルス感染確率を40%未満に保つことができれば緩やかなロックダウンでも、厳しいロックダウンと同じくらいの効果が見込めることも示されたとしている。
なお、研究グループでは、今回用いた一次元の格子モデルは、数式的に簡単なものであるため、より複雑な状況に対しても適用しやすいとする一方で、単位時間、移動性を現実の世界の時間と距離に対応させる際には、あいまいさが伴うことに注意が必要だともしている。ただし、同研究グループでは、こうした制限を加味したとしても、同モデルは、移動制限や感染拡散にどのような効果があるかを評価するための有用な定性的および相対的な情報を提供できるものとの考えを示している。
同システムは論文受理後に同大のWebサイト上で公開される予定だという。