テクノロジーによって企業の財務・会計業務を効率化したり、資金繰りを支援したりするフィンテック分野では、ベンチャー企業を中心にさまざまなサービスが開発され、導入企業にとっては企業経営のデジタルトランスフォーメーションの選択肢のひとつとして検討されてきた。しかし、これまでは経理業務や資金繰りの効率化を目的に考えられてきたフィンテックは、新型コロナウイルスの感染拡大によってその意義を変えてきたのではないか。
つまり、ビジネスを取り巻く社会環境の急激な変化によって生じる資金繰りの悪化などに対応するために、そしてこうした変化を乗り越えて企業の持続可能性を担保するために、“Withコロナ”時代の企業経営においてフィンテックは、“選択肢”ではなく“不可欠”な存在になるのではないか。コロナ禍によって財務・経理分野のデジタルシフトが急速に進むのではないかというのが、筆者の考えだ。
そこで、マネーフォワード傘下で法人向けファクタリングサービス「MF KESSAIアーリーペイメント」を提供するMF KESSAI株式会社の代表取締役社長である冨山直道氏に、コロナ禍によるフィンテックに対する市場ニーズの変化や今後の見通し、そして今後企業向けフィンテックの拡大が予想されるなか健全な市場成長のために同社ではどのようなマーケティング戦略を考えているかなどについて、オンラインインタビューにてお話を伺った。
売掛金を元に資金調達を行い、運転資金需要に対応できるファクタリング
まず、話の前提としてフィンテックのひとつである「ファクタリング」とは何かについて、「MF KESSAIアーリーペイメント」を例に説明しよう。
ファクタリングとは、企業の売掛金=売上の請求書や取引契約など“入金が予定されている売上”を担保にして資金調達ができる法人向けサービスのこと。売掛金は、取引先企業から請求金額が振り込まれることで初めて自社の運転資金として活用することができるが、企業間取引では売掛金が発生してから振り込まれるまでの間に1カ月から数カ月のタイムラグが生じる。その間の運転資金を確保するために、発生している売掛金を元に資金調達をすることで急な運転資金の需要に対応できるのが、ファクタリングというものだ。
そして冨山氏によると、このファクタリングでは資金調達の原資とした売掛金を回収する方法に2つのパターンがあるのだという。ひとつは、売掛先企業から回収する方法(3者間ファクタリング)、そしてもうひとつがファクタリングを利用した企業が回収する方法(2者間ファクタリング)だ。前者ではファクタリングを利用する時点で債権者が変更されるため、売掛先企業の許諾や、場合によっては債権者変更の手続きが必要になる。しかし、後者ではファクタリングを利用した企業が回収した売掛金を元に返済するためシンプルな取引スキームになる。MF KESSAIアーリーペイメントでは後者の2者間取引を採用しているという。
「2者間ファクタリング のほうが、売掛先企業にファクタリングの利用を知られたり、請求スキームを変更したりすることなく、早期に資金調達できる。事前に所定の審査が必要だが、MF KESSAIでは債権譲渡の申込から最短2営業日で資金化することが可能だ」と冨山氏は説明する。
加えて、ファクタリングはすでに発生している売掛金を担保に資金調達をするため、金融機関の事業性融資が受けられない企業でも利用できるのが大きなポイントなのだと冨山氏は説明する。
「ファクタリングは、例えば会社の業績が浅かったり、売上規模が小さかったり、担保にできる資産がなかったりといった理由で金融機関からの資金調達が難しい中小企業、ベンチャー企業の課題を解決できるソリューションだと考えている」(冨山氏)