長年の時を経て、IT管理者に対する固定観念は変化しつつあります。オフィスの片隅で黙々と業務をこなす印象は薄れてきたかもしれません。その一方で、コミュニケーション力といった対人スキルは、いまだにIT管理者が重要視すべき要素として広く認知されていません。今、こうした見方が変わろうとしています。

IT管理者は、急速に進化するビジネス環境に適応する必要性をすでに認識しています。SolarWinds ITトレンドレポート2020:ITの世界共通言語では、国内のIT管理者は「非技術的なスキル」が自社のIT環境の管理にとって最も重要であると感じていることが明らかになりました。こうした非技術的なスキルには、ピープルマネジメント、対人コミュニケーション、リスクマネジメントなどが含まれます。

2020年には、新型コロナウイルス感染症の深刻化により、多くの企業がリモートワークの導入をはじめました。IT管理者は、ネットワーク、データベース、アプリケーションの監視や管理など、日常的に起こるさまざまなIT関連の問題に対処しなければなりません。こうした取り組みは、特にリモートワーク環境で事業継続性を確保するには不可欠です。

また、従業員同士が近い距離で仕事をしなくなったことで、部門間で効率的かつ効果的なコミュニケーションを図ることが組織の成功にとって、ますます重要になっています。例えば、ITチームは予期せぬ危険から身を守るため、従業員に対してビデオ会議アプリを安全に使用する方法を明確に伝える必要があります。

日本政府は5月25日に全国で緊急事態宣言を解除しました。しかし、TwitterやDwangoなど多くの企業では、それ以降もすべての従業員に対して在宅勤務の継続を認めています。こうした状況でIT管理者もこれまでのやり方を変えることが求められています。

対人スキルの向上に重点的に取り組み、ビジネスに直結する部門との連携を深めることで、同僚を含め、すべてのステークスホルダーに対して一貫性ある、ビジネス指向のコミュニケーションを実現する必要性が増しています。

それでは、IT管理者がコミュニケーション力を向上し、各部門と連携を促すために、企業としては何ができるでしょうか?

効果的なフィードバックループの作成

DevOpsの台頭(開発とIT運用を融合させ、信頼性の高いソフトウェアをより早く構築、テスト、リリースするための比較的新しい方法論)は、アジア全体で新たなトレンドを推進する重要な要因の1つとなっています。効果的なDevOps戦略には、コミュニケーションやコラボレーションからタスク、機能の統合に至るまで、ソフトウェア開発チームとIT運用チームの機敏な連携が必要です。

DevOpsのカルチャーは、継続的な開発、フィードバック、そして改善のサイクルに基づいています。効果的にフィードバックループを回すには、個人、チーム、部門間のコラボレーションとコミュニケーションが極めて重要になります。

IT管理者が技術的な課題を非技術者にもきちんと伝えることができない場合、誤った意思疎通が生まれてしまいます。目標や戦略のズレ、技術が達成すべきこと(そして達成できること)に対する非現実的な期待、そしてITがデジタル変革の障害になっているという感覚が広がります。また、コミュニケーションが途切れてしまうと、フラストレーションを引き起こし、最終的に組織のDevOpsカルチャーの展開を妨げることになりかねません。

このように対人スキルの向上は、組織内でのIT管理者の役割の変化においても不可欠なものとなっています。IT管理者は、セルフサービスのWebサイト、データ分析、オートメーション技術、チャットボットなど、組織内で展開されるあらゆるデジタルサービスの所有者として、認識されるようになってきています。

エンドユーザー(特にこれらの新たな技術の導入に不満を持つ人々)に親身になってコミュニケーションを取ることができると、緊張感が和らぎ、社内でもデジタル導入やその同意の獲得を加速させることができるようになります。

強力な対人スキルが、ユーザーが何を求めているのかをIT管理者がよりよく理解するのに役立つことは明らかです。各個人が技術に対して何を求め、何に期待しているのか洞察を得ることで、より充実したデジタル戦略の策定にも役立ちます。

  • IT部門のコミュニケーション力を向上させる3つのステップ

コミュニケーション力向上のための基礎要素

コミュニケーション分野のソフトスキル向上のため、次の3つの要素に焦点を当てることをおすすめします。

  • 人前で話す力
    考えや方針を効果的に伝えるためには、声の大きさと明瞭さが欠かせません。高度で技術的な概念を魅力的に伝える方法として、ストーリーテリング、視覚言語、プレゼンテーションについて学ぶことは、IT管理者にとっても大きなメリットになります。人前で話すクラスに参加したり、会議中にプレゼンテーションする機会を増やしたりすることで、このスキルを早く身につけることができます。いきなり大勢の前で話すことに抵抗がある場合は、IT管理者同士のより小規模な意見交換からはじめてみてはいかがでしょうか。

  • 効果的なコミュニケーション能力と交渉力
    職場でのさまざまなレスポンスや反応に対処する能力は、IT部門にとって非常に重要であり、特にチーム間での連携を管理し、お客様やパートナーに対応する場合、必須の能力と言えます。また、IT管理者は関係者のニーズを踏まえながら適切に社内で交渉することで、自らの部門に望ましい結果を導くことができます。ウィンウィンの状況を達成することは決して容易ではありませんが、プロセスに投資することで、必然的に今後のデリバリーと導入フェーズで直面する障害をあらかじめ取り除くことができます。IT管理者は争いに対処し、問題の真の原因を特定することで、より総体的な解決策を提案できるようになります。

  • 適切なコミュニケーションツール
    共感力とリスニング力は非常に重要ですが、より効果的なコミュニケーションの基盤を構築することで、社内全体でチームワークの効率性と俊敏性が向上します。Slackなどのアプリを使うことで、チーム内での業務はもちろん、スケジュールや締め切りの最新状況も共有できるため、お互い異なる場所にいてもコミュニケーションを簡素化することができます。また、リモートワーク従業員が増えるケースにも対応が可能です。

IT管理者は多忙なスケジュールと両立させながら、どのように新しいスキルを取得すれば良いのでしょうか?まずは似た目標を持つ仲間を探して、一緒に学ぶことです。こうしたアプローチにより、IT管理者がスキル習得に対する重要性を認識し、実践するための貴重な機会を得ることができます。また、必要なコミュニケーションスキルを学べるオンラインコースを利用することで、自身のペースや能力に合わせて学習することができます。

組織を成功に導くコミュニケーション

IT管理者は、より良いコミュニケーション能力を身につける必要性をマネージャーと話し合うべきです。それには高い投資対効果もあります。対人関係のスキルを高めることで、IT部門とそのほかのビジネスチーム間の障壁を取り除くことができ、コラボレーションとイノベーションを加速させることができます。多くのIT管理者にとってはこうした議論が、対人スキルを成長させる最初の実践となるでしょう。

新型コロナウイルス感染症により、意図せずに組織内コミュニケーションにスポットライトが当たることになったかもしれません。しかし、今後もさまざまなコミュニケーションのアプローチを職場の文化として残せるよう、継続的に取り組む必要があります。

ITとそれ以外の部門がお互いの役割を理解するほどに、組織の効率性が向上し、全員が一体となって目標を達成できることは言うまでもありません。部門を分離したままでは、組織内で悪循環な「伝言ゲーム」が発生するだけです。良好なコミュニケーションの構築には時間と労力がかかりますが、一度でもそれを確立できれば、際立った結果が生まれることがあります。

著者プロフィール

ソーラーウインズ・ジャパン株式会社 日本担当カントリーマネジャー


河村浩明(かわむら・ひろあき)


東京大学工学部物理学科卒業。IT業界での長年にわたるキャリアの中で、営業やビジネス開発などで管理職を歴任。日製産業株式会社(現、株式会社日立ハイテク)、EMCジャパン株式会社、日本オラクル株式会社を経て、サン・マイクロシステムズ株式会社、株式会社シマンテック、DropBox Japan株式会社では代表取締役社長を務める。2019年5月から現職。