ミスミが挑む製造業のデジタルトランスフォーメーション
産業機械分野向けに約3000万点の機械部品を紙カタログやWebで提供する製造業のアマゾンとも称されるミスミ。その膨大な取り扱い数から、製造業で必要なものはほとんど揃うと言われ、800垓という膨大な組み合わせバリエーションは圧倒的ともいえる。
そんな同社が日本の基幹産業である製造業、特に調達領域に対してデジタルトランスフォーメーション(DX)にもたらすことで、労働生産性の改善につなげることを目指し、「meviy(メヴィー)」と呼ぶサービスを2018年に本格的に立ち上げた。
デジタルで製造業の調達作業を簡素化
meviyは、同社はDMaaS(Digital Manufacturing as a Service)と表現する、いわゆるプラットフォーム型のサービスで、2つの大きな特徴を有している。1つ目は、「AI自動見積もり機能」。顧客がアップロードした設計データを自動で加工形状を取得、それを元に生産工程を自動で算出、最適な納期と価格を5秒程度で導き出すことを可能とする。
また、数量、材質、表面処理などを変更すると、自動で価格と納期もそれに合わせて変わってくるほか、プロのエンジニアを相手としたサービスであるため、公差の違いでも見積もり価格が自動的に変更されたり、板金加工の加工限界を超えた場合などでは、エラーメッセージが理由とともに出されるなど、インタラクティブにWeb上で価格と納期を調べることができることがポイントとなっている。同社では、その威力について、「加工屋のおっちゃんが図面を見て、パっと納期や価格を導き出すといった、頭の中で瞬時に経験を頼りに導き出している計算をそのままAIにやらせた感じ」だと表現する。
2つ目が「デジタルものづくり」。これはミスミが長年積み重ねてきたノウハウの結晶で、顧客から設計データを受け取った後、従来であれば工作機械を選定し、NCデータを作って加工を行う作業が必要であったが、そうした作業を一足飛びに、設計データからダイレクトに製造データを生み出すことで、受注と同時に加工を開始することを可能とするというもので、最短1日で出荷が可能だという。
これらを組み合わせると、3Dの設計データから2Dの図面の作図にかかる時間、見積もりを入手するのにかかる時間、納期にかかる時間の削減が可能となり、例えば1500点の部品を必要とする場合、2Dの図面作図に約750時間、見積もり取得に80時間、製造に112時間で約1000時間必要であった従来の調達にかかる時間は、meviyで設定するのに約70時間、実際の製造に8時間と併せて約80時間と、要する時間を実に92%削減することができるようになるとする。
プラットフォームにこだわり、サービス力を強化
2020年4月時点で、meviyは製造業のバリューチェーンにおける量産化から製造、検査・出荷、保守・修正までカバーする「FAメカニカル部品」、企画、開発設計をカバーする「ラピッドプロトタイピング」、量産化や製造をカバーする「金型部品」の3つのサービスを提供している。
meviyのビジネスを担当するミスミ 3D2M企業体 代表執行役員 企業体社長の吉田光伸氏は、今後のサービスの拡充の方向性について、「2020年は北米をはじめとした海外展開を開始する予定」と説明。ただ、そのやり方については、「ミスミ単独での進化では限界が来る」ともしており、世界の有力なサプライヤとの連携を各国で進め、各国の製造業の事情に合わせたサービスの方向性を模索していくとする。
例えば「Amazonマーケットプレイスのようにmeviyのサイトの様々な加工業者にも参画いただくようなオープンプラットフォームといったことも視野に入れている。我々はあくまで加工のためのプラットフォームを提供して、我々がカバーしきれていない加工技術を持っている企業などに参画してもらって機能強化を図っていく」といった方向性もありだとする。
meviy自身も5月25日付で、顧客からの要望が多かった金型用部品「エジェクタピン」の納期を最短即日出荷とするサービスの提供を開始したことを発表するなど、提供サービスの拡充を進めており、今後も顧客からの要望が多いものから機能拡充を図っていくことを掲げている。吉田氏も、「月に2回は新機能、サービスの追加をアナウンスしていきたい」と意気込む。
目指すは顧客の要望すべてに応えられる存在
吉田氏は、meviyの提供するサービスについて、「まだまだ対応できていない部分がある」とし、サービスの完成度としても2合目、3合目という段階と評し、今後もサービスの拡充を図っていくことを強調する。
その思いは、実はmeviyという名称そのものに込められている。meviyには「Misumi EVolutional Interface for infinitY(ミスミの進化し続けるインタフェース)」という意味が込められており、顧客の要望に常にこたえられる存在となるという意思の表れでもあるという。
「製造業にもいろいろあり、ミスミは機械部品を扱うという一番根っこの部分に位置し、取り扱い点数は約3000万点と、これだけの規模で対応している会社はほかにない。ある意味、社会インフラの企業ともいえる。そうした企業がデジタルを活用して、新しいプラットフォームを提供する。デジタルを活用した働き方改革が必要とされる今だからこそ、社会に貢献できると思っている」(同)。
meviyの顧客数は現在、4万ユーザーを超え、そのリピート率も実に80%に達するという。そうしたリピーターたちは開発のスピードと品質の向上、注文時のエラー発覚による設計知識の向上、ペーパーレス化といった恩恵を享受しているという。吉田氏は中でも、「meviyを使って時間短縮した結果、顧客は浮いた時間で何をしようか、ということを考えることができるようになる」とものづくりにおける「時間」の使い方に変化が訪れることの重要性を説く。時間の使い方が変われば、労働時間の削減による生産性改革が図れるようになるほか、製造業で働く人たちのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上にもつながるためだ。
これまで日本の製造業は長年にわたって培ってきた勘、コツ、経験で高い品質を実現してきた。ここにmeviyのようなデジタルの活用が加わることで、日本の製造業の次に向けた闘い方が見えてきた気がする。同社の今後の取り組みに注目したい。