巨大宇宙船試作機の極低温耐圧試験に成功
米宇宙企業スペースXは2020年4月28日、巨大宇宙船「スターシップ」の試作機の、極低温耐圧試験に成功した。
タンクに液体窒素を充填し、極低温環境と圧力にタンクが耐えられるかどうかを確かめる試験で、これまで3機の試作機が同様の試験で爆発。今回が初めての成功となった。
スペースXは近いうちに、この試作機にロケットエンジンを装着し、地上での燃焼試験、そして試験飛行に臨む。
スターシップ試作機「SN4」
スターシップ(Starship)はスペースXが開発している宇宙船で、直径9m、全長50mの巨体を最大の特徴とする。打ち上げには、同じく巨大な「スーパー・ヘヴィ」ロケットをブースターとして使い、最大100人の人員、もしくは100tの物資を地球低軌道へ運ぶことができる。
また、軌道上で推進剤を補給することで、同じ人員や物資を月、火星にも送り届けることができる能力をもつ。さらに、機体はステンレス鋼合金でできており、後部に取り付けた翼や推力可変式のロケットエンジンなどを駆使することで、着陸と再使用も可能としている。同社では有人月・火星探査に使うほか、いずれは同社の主力ロケット「ファルコン9」や「ファルコン・ヘヴィ」を代替することも計画している。
スターシップは現在、テキサス州ボカ・チカにある同社の施設において、試作機の開発や試験が行われており、製造技術の実証や高度数十kmへの試験飛行などを経て、実機の製造に移る計画になっている。
スターシップの試作機はこれまで数種類が製造されたが、その多くは極低温耐圧試験で破裂し、破損。とくに「SN(Serial Number)1」と「SN3」と呼ばれる機体は、完全に失われるほどの爆発的な事故を起こしている。そして今回、「SN4」と名付けられた試作機で初の成功となった。
スペースXのイーロン・マスクCEOによると、「SN4には改良した製造技術と溶接技術を導入した」とし、また「幾何学的な変更とともに、極低温環境で高い柔軟性をもつ新しいステンレス鋼合金を導入した」と語っている。
同社は次に、このSN4にロケットエンジン「ラプター」を装着し、地上燃焼試験を行うことを計画している。マスク氏によると、うまくいけば1~2週間のうちに実施できるとしている。
燃焼試験に成功すれば、次は試験飛行を行う予定。詳細は明らかになっていないものの、ラプター・エンジンを1基のみ搭載し、高度150mまで上昇したのち、着陸する試験になるという。
スペースXはまた、次のスターシップの試作機「SN5」の製造も進めており、こちらは3基のラプターを搭載し、より高い高度への試験飛行を行うことを計画しているという。
スターシップ
スターシップの開発は、2016年9月、火星移民構想とともに発表された。当時は「惑星間輸送システム(ITS:Interplanetary Transport System)」と呼ばれていたが、2017年9月に機体のサイズや設計が変更され、また名前も「ビッグ・ファルコン・ロケット(BFR:Big Falcon Rocket)」に変わった。
さらに2018年9月には、ZOZO前社長の前澤友作氏と、BFRを使った月飛行旅行「#dearMoon」を実施することを発表するとともに、設計も再度変更。そしてその後、さらに設計が変更され、また宇宙船はスターシップ、それを宇宙空間へ打ち上げるロケット(ブースター)はスーパー・ヘヴィと呼ばれるようになった。
当初のITSから比べると、機体に比較的大きな翼が追加されたり、タンクがカーボン製からステンレス鋼合金製に変わったり、機体の大きさはやや小さくなったりと、かなり大胆な変更が行われている。それでも、地球低軌道に約100tという打ち上げ能力は依然として強大なままであり、また宇宙船やブースターの完全再使用、そして月や火星への飛行能力などはそのまま受け継がれている。
2019年8月には、「スターホッパー(Starhopper)」と呼ばれる試作機を開発し、高度150mまで上昇してホバリングしたのち、着陸する試験に成功。続いて、実機のスターシップとほぼ同じ形状、寸法をした「スターシップMk1」と呼ばれる試作機を建造した。
もともとはこのMk1を使って高度20kmまで飛行する試験を行う予定だったが、2019年11月にタンクに圧力をかける試験中に破裂し、破壊。また、Mk1と並行して、より実機に近いMk2、Mk3という試作機の製造も進んでいたが、計画の見直しにより中断された。
その後は、SNと名付けられた新しい試作機シリーズの開発に移ったが、SN1は2020年2月、耐圧試験中に破裂。タンクのみの試作機SN2による試験は成功したものの、続いて製造されたSN3がふたたび耐圧試験中に破裂を起こし、開発はやや足踏み状態となっていた。
今回、SN4が極低温耐圧試験に成功したことで、ようやく次へのステップを踏み出したことになる。今後同社は、SN4、そしてSN5とSN6による試験飛行を行ったのち、2021年には無人での地球周回軌道への飛行、そして有人飛行を経て、2023年には有人月飛行を行うことを計画している。
ただ、巨大かつ複雑なスターシップが、この予定どおり開発できるかどうかは、まだ不透明である。
参考文献