NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は4月22日、2020年度の事業戦略について説明。同社の庄司哲也社長は、「国内事業会社として持続的成長に必要な戦略的基盤として、2019年秋にローンチした「Smart Data Platform(SDPF)」を主軸に据えたビジネス展開により、DX Enabler(イネイブラー)として、DXの実現、社会的課題の解決に貢献したい」と述べた。

  • NTTコミュニケーションズ 代表取締役社長 庄司哲也氏。事業戦略説明会はWeb配信によって行われた

今回の事業方針説明では、組織体制を見直したことに触れながら、プラットフォームサービス本部が担当する「Smart Data Platform(SDPF)の拡充」、ビジネスソリューション本部による「ソリューション提供能力の強化」、イノベーションセンターによる「新規事業の創出」の3点の観点から、今後の取り組みを説明した。

  • 2020年度の取り組みは「Smart Data Platform(SDPF)の拡充」、「ソリューション提供能力の強化」、「新規事業の創出」の3点

SDPFの拡充においては、「ネットワークやデータセンター、クラウドなどのリソースを、デジタルデータの利活用をテーマに再編成し、コグニティブ・ファウンデーション構想を取り入れた形で構築したプラットフォームがSDPFになる」と前置きし、「当社自らが、ネットワーク、データセンター、クラウドをアセットとして有していることが強みとなって提供できるプラットフォーム。2019年秋から提供を開始して以来、多くの企業から関心が集まっており、すでにSDPFを利用した様々なプロジェクトが進行中である」とした。

主要IX、クラウドサービス事業者、ユーザーを相互接続するためのハブとしての役割を果たす「ネットワークデータセンター」については、首都圏においては、2019年度に主要IXとのダイレクト接続やクラウドサービス事業者との相互接続を強化。2020年度は、関西圏においても、ハブとしての機能を強化することになるという。

  • ネットワークデータセンターの拡充

「ユーザーは、快適で、安全なマルチクラウド環境を実現でき、クラウドサービス事業者にとってはユーザーベネフィット強化につなげことができる」と述べた。

さらに、ユーザーの拠点とクラウドサービス、データセンターなどを簡単に接続できるネットワークサービス「Flexible InterConnect(FIC)」についても触れ、「顧客情報などの重要な情報をセキュアな環境で利用したいといったニーズがある。FICであれば最小限の設備を用意するだけで利用でき、セキュアな接続環境を、時間やコスト面においても、メリットがある形で提供できる。データ利活用に関わるエコシステムが構築できる」とし、「ネットワークの帯域変更をオンデマンドで行える新たな機能を今日から提供する」などとした。

  • 「Flexible InterConnect(FIC)」

また、アクセスネットワークの拡充としては、フルMVNO基盤を利用して、柔軟な運用が可能になるeSIM、柔軟でセキュアなネットワークを実現するSD-WAN、超高速化と多数同時接続が可能なローカル5Gなどの取り組みに触れ、「ブリヂストンとのローカル5Gの実証実験では、工場敷地内において、通信品質などを検証。当社のラグビーチームのシャイニングアークスの本拠地であるアークス浦安パークでは、エッジコンピュータとローカル5Gを組み合わせた実証実験を予定している」と語った。

  • アクセスネットワークの拡充

さらに、マネージドセキュリティの拡充については、公開情報と非公開情報を指定し、企業間でデータを共有したり、データ分析結果から 自動的に非公開情報を削除したりできる「DATA Trust」を紹介。あわせて、セキュリティ人材の育成に積極的に取り組んでいることも示した。

  • マネージドセキュリティの拡充

今回の会見では、SDPF上で提供するアプリケーション「Apps on SDPF」として、3つのソリューションを紹介した。NTT研究所の言語研究成果をもとにした「COTOHA」の新たな製品と提供を開始した要約文作成AIエンジン「COTOHA Summarize」、コンタクトセンターのCX向上を実現する「CX Platform」、電子社員証アプリケーション「Smart Me (仮称)」であり、「CX Platform」は2020年秋に、「Smart Me」は2020年夏にリリースを予定していると語った。

  • 「Apps on SDPF」

  • 「COTOHA Summarize」

  • 「CX Platform」

一方、ソリューション提供能力の強化では、「Factory」、「City」、「Education」、「Healthcare」、「Workstyle」、「Mobility」、「Customer Experience」の7つの領域において、それぞれに推進室を設置。パートナーやNTTグループとの連携によってソリューションを提供し、社会や業界が持つ課題解決に取り組む考えを示した。

  • 7つの領域において、それぞれに推進室を設置

トヨタ自動車との連携によるスマートシティへの取り組みや、日本の製造業における競争力強化に向けたスマートフォクトリー、生徒への細かなサポートを実現するスマートエデュケーションについて説明。

「たとえば、製造業における調達業務は、アナログな発注仕様や、熟練者の勘と経験に依存した見積りを行っていること、固定化した受発注関係といった課題があったが、これを解決するために業界横断型のデジタルマッチングプラットフォームを構築し、AIをもとに最適な調達先を提示することができるようになる。また、教育現場においては、多忙な教員の業務負荷が高いこと、画一的授業しか行えないといった課題を、まなびポケットによって、効率的なクラス運営が可能になり、生徒自らも進捗度合や理解力などをもとに、教材を選択できるなど、テーラーメイド型教育が実現でき、課題を解決できる」などとした。

  • 製造業における調達業務で業界横断型のデジタルマッチングプラットフォームを構築

なお、NTT Comでは、レノボ・ジャパンとの協業により、教育向けPCとまなびポケットなどを組み合わせたGIGAスクールパックを発表したことにも触れた。

庄司社長は、「スマートワールド全体で、2020年度は数億円から数10億円の売上げを目指し、数年後には、数100億円の規模を目指す」と述べた。

そして、新規事業の創出では、オープンイノベーションプログラムを実施し、NTT Comが持つリソースを、スタートアップ企業や学術機関、シンクタインクなどに開放し、先進技術との組み合わせで新たな価値創造を目指している事例を示し、「2019年度からスタートし、すでに200以上のアイデアが生まれており、そのうちのいくつかが事業化に向けて実証実験を開始している」と述べた。また、顧客とともに共創する活動としてC4BASEに取り組んでいることにも触れ、ここでは300社1000人以上が参加し、セミナーやワークショップを通じて定期的なコミュニティを開催していると語った。

  • オープンイノベーションプログラムを実施

一方、2025年には、公衆交換電話網からIP網への切替が完了する「フルIP化」を控えている。これは、NTT Comの事業構造の変革を促すものになる。「NTT東西は市内および県内、NTT Comは県間の固定電話事業を受け持ってきた歴史がある。だが、距離に応じた通話料金だったPSTNは設備の老朽化に伴い、距離によらない全国一律料金を実現できるIP網へとマイグレーションされることになる。これが2025年に完全移行する。通話区分がなくなるため、NTT Comの固定電話サービスの事業収益は大幅に縮小することになる。また、スマホを活用したモバイル回線へのシフトが加速している個人向け用途においても、ISP市場の回線数の減少が免れない」と同社が置かれた立場を示しながら、「当社の利益の柱であり、市場でトップシェアを誇るOCNサービスも、ISP市場全体の縮退のなかで厳しい事業運営を迫られる。固定電話とOCNをあわせた収益は、2024年度には、2012年度比で6割減少すると想定している。2025年までに、事業構造の変革と、新たなビシネスモデルの構築が急務である。新たな事業を早期に立ち上げ、それを伸ばすことで、固定電話収益の減少や国内ISP市場の縮退の影響を補っていくことができる事業構造に転換し、持続的成長を支える収益基盤の確立を図る」と危機感を募らせた。

  • 公衆交換電話網のフルIP化、スマホを活用したモバイル回線へのシフトに向けた事業構造の変革が急務

今後の同社の成長を支える新たな事業の柱の創出が急務になっている。

一方、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、在宅勤務が増加していることによる通信環境への影響についても言及。

「テレワークや在宅学習などにより、日中のトラフィックが大幅に増加している。平時は、夜間にピークに迎えるトラフィックをベースに、一定の余裕を持たせた設計ポリシーでネットワークを運用している。現状の推移であれば、このまま安心して利用してもらえるキャパシティを十分確保している。NTT東西も、PPPoEおよびIPoEのトラフィック状況を公開しており、トラフィックの変化を監視しながら、日本の通信環境の維持に努めていく」と発言。

「いま、世界が直面している難局により、これまでの生き方、働き方、社会とのつながりなど、当たり前であったものを根本から見直さなくてはならなくなった。NTTコムは指定機関としての責務であるライフラインの維持とBCPに取り組み、安心、安全、安定的な通信サービスを提供するのが使命であり、社会活動や経済活動を継続させなくてはならない。公共性と企業性の2つの責任を負っている。その期待に応えていく」とした。

なお、同社では、現時点で、派遣社員を含めて84%が自宅からテレワークを行っているという。

庄司社長は、「在宅勤務でも機密情報や機微なデータを扱う場面があり、そこでオープンなクラウドサービスを使用するのは、セキュリティ上懸念がある。NTT Comでは、オフィスのセキュアな環境を遠隔でも使えるように、テレワークに最適な環境を開発した。また、マイクロソフトやSalesforceとも、安全に接続ができるように閉域網接続やクラウド型セキュリティを併用している。これらの環境は、自社で利用するだけでなく、ソリューションとして提供できるものになっている」と述べたほか、「当社は、『今日と未来の間に。』という企業理念を掲げている。未来となる新型コロナ終息後、今日、なにができるかが問われている。新型コロナ終息後も継続できる新たな働き方への挑戦、新たな行動原理や組織文化を作る気持ちも忘れていない。テレワークの流儀を企業に浸透させていくことも含めて、行動変異への適用を支えるDX Enablerになることを目指す。いまだからこそ、NTT Comはなにができるのか、社会に貢献できるのかを、自分ごととして捉えて行動する」などと語った。