中国の国有宇宙企業、中国航天科技集団などは2019年8月17日、新型ロケット「捷竜一号」の打ち上げに成功した。
捷竜一号は、小型・超小型衛星の打ち上げに特化した「超小型ロケット(micro launcher)」のひとつ。効率性を追求し、衛星の搭載方法などに独創的なアイディアを採用している。
中国では先日も、北京星際栄耀空間科技(星際栄耀)というベンチャー企業が超小型ロケットの打ち上げに成功するなど、この分野の開発競争が活発になっている。
捷竜一号
捷竜一号は、日本時間8月17日13時11分(北京時間12時11分)、甘粛省にある酒泉衛星発射センターから離昇した。
ロケットは順調に飛行し、搭載していた「千乗一号01星」、「星時代5」、「天啓二号」の3機の衛星すべてを所定の軌道に投入。打ち上げは成功した。
千乗一号01星は質量65kg、星時代5は質量10kgの地球観測衛星。天啓二号は、天啓IoT衛星コンステレーションを構成する3機目の衛星となる。
捷竜一号は、中国航天科技集団が開発した、小型衛星の打ち上げに特化した超小型ロケットである。「捷竜」は英語では「Smart Dragon」と訳されており、「活発、機敏な竜」という意味をもつ。
全長は19.5m、直径は1.2mで、全段に固体推進剤を使う4段式ロケット。高度500kmの太陽同期軌道に200kg、高度700kmの太陽同期軌道に150kgの打ち上げ能力をもつ。
捷竜一号を開発した中国航天科技集団は、中国の国有宇宙企業で、その傘下には、液体ロケットから固体ロケット、衛星などの開発、製造を手掛ける企業(研究院)をいくつも擁しており、中国において最大、また世界でも有数の宇宙企業である。実際の開発も、同社の傘下にある中国運載火箭技術研究院が手掛け、また運用は、中国運載火箭技術研究院からスピンオフした中国長征火箭が手掛ける。
中国運載火箭技術研究院は、中国の主力ロケットである「長征二号」や「長征三号」、「長征五号」などの開発、製造を手掛けていることでも知られる。ただ、長征ロケットは、商業打ち上げもおこなってはいるものの、基本的には中国の国家としての宇宙計画のもとで開発、運用されている。一方、捷竜一号は当初から、民間の宇宙企業や市場をターゲットとした「商業ロケット」として開発されたという点が大きく異なる。
捷竜一号の開発は2018年2月から始まったとされ、わずか18か月で打ち上げにこぎつけたことになる。その背景には、同社やその関連企業がもつ技術や実績が大いにいかされたことは間違いない。
効率重視の奇抜なロケット
捷竜一号の最大の特徴は、古今東西のロケットにはない、奇抜な設計を採用しているところにある。
なかでも最も目を引くのは衛星の搭載場所である。通常のロケットの場合、衛星は先端の、フェアリングと呼ばれるカバーのなかに搭載するが、捷竜一号では3段目機体と4段目機体の間にフェアリングを設け、そこに衛星を搭載している。しかも、この変わった搭載方法を実現するために、4段目は上下逆にした状態で搭載。打ち上げ時には、3段目との分離後に機体を反転させてロケット・モーターに点火するという、アクロバティックな飛び方をする。
このような奇抜な仕組みを採用した理由について、同社は「衛星の搭載スペースを最大限に確保するため」としている。
どんなロケットでも、先端部分は空気抵抗を減らすために円錐形に、すなわち尖っている。そしてその内部は、その尖った形状に沿って、まるで天井裏のように狭くなっている。通常のロケットはこの部分に衛星を搭載するが、このような事情から、衛星の大きさや、あるいはアンテナなどの部品の出っ張り具合によっては搭載できなかったり、衛星を収めるためにわざわざ大きめのフェアリングを用意しなければならなかったり、あるいは衛星側がそのサイズに合わせた寸法で造らざるを得なかったりといった不都合が生じる。
その点、ロケットの中間部分に衛星を搭載すれば、完全に円筒形のフェアリングにできるため、たとえば同じ内容積を確保する場合、通常のロケットと比べて全長などを抑え、コンパクトにすることができる。
同社によると、フェアリングは2種類あり、ひとつは直径1.1m、全長1.5m。もうひとつは直径1.4m、全長2.0mだという。
もうひとつの特徴は、推進系と姿勢制御系を完全に分けている点である。多くのロケットは、ロケット・エンジンやモーターのノズルを動かして姿勢制御をしている。しかし、ノズルを動かすのは技術的に難しく、製造にコストがかかり、壊れやすい部分でもある。
そこで捷竜一号は、全段のモーターのノズルを固定式にし、モーター本体を簡素化。飛行中の姿勢制御は、1段目下部の制御翼(フィン)と、ロケットの先端、すなわち上下反転させて搭載している4段目のノズル付近に装備したスラスター(RCS)を使っておこなうようになっている。また、このRCSは、前述の4段目を反転させる際にも使う。さらに、各段の固体モーターの設計や部品などもできる限り共通化。こうした方策により、ロケットのコストが削減できたとしている。
くわえて、RCSの推進剤は、ボトルに入れたものを打ち上げ前のロケットに装填する、いわゆるカートリッジ式を採用。これにより、安全性や作業性が向上し、迅速な打ち上げが可能になったという。
このほかにも、高性能なコンピューターとソフトウェアによる高精度かつリアルタイムの飛行制御の実現など、「低コスト、高信頼性、モジュール性、産業化、セキュリティ性、メンテナンス性」を追求。効率のいい超小型ロケットを目指し、考え抜かれた設計をしている。奇抜さはむしろその表れといえよう。
これらの結果、打ち上げの発注から打ち上げまでにかかる期間はわずか6か月ほど、さらに打ち上げ日当日の準備にかかる時間はわずか24時間と、高い即応性ももつ。
同社はすでに、合計6件からなる、30機分の捷竜一号の打ち上げ受注を取り付けている。さらに、液体推進剤を使用し、そして再使用によってさらなる低コスト化を目指した、新型ロケットの開発も進めているという。