JALは7月17日、JALイノベーションラボで仮想現実(VR : Virtual Reality)を活用した整備士訓練について、報道向けの説明会・体験会を開催した。本稿では、取材を通じて、VRによって「できること」「できないこと」を整理してみたい。

VRデバイスで整備士の訓練を体験

説明会では、説明して動かしてみせるだけでなく、実際にVRデバイスを体感する機会を設けていただいた。

ヘッドセットを被ると、目の前には実機のコックピットと同じ光景が広がっている。上を向くと頭上のパネルが見えるし、前を向くと計器盤の多機能ディスプレイ(MFD : Multi Function Display)が並んでいる。身体を引くと見える範囲が広がるし、身体を前のめりにすると特定の部分がクローズアップされる。

画面に表示されるコックピットは、実機のコックピットを写真に撮って、それを基にモデルを起こしたもので、サイズ感や距離感は実機と同じだそうだ。違うのは、下の方を見ると椅子が直に見えて自分の身体が見えないところや、手を前方に伸ばしても自分の手が視界に入ってこないことぐらい。

手の操作は、右手に持ったコントローラで行う。画面上では、視線が向いている場所が水色の円形で表示され、手の位置や向きは白い線とマーカーで表示される。マーカーを何かのスイッチに合わせて、コントローラのボタンを操作すると、計器盤のボタンを押したり、ノブをひねったりといった操作になる。

  • VRヘッドセットに表示している内容を、スクリーンに同時表示している様子

これを使って、エンブラエル製E170とE190の整備士を養成する際の操作手順を訓練しようというのが、今回の眼目。まず、エンジンを試運転する際の始動手順が対象になった。

日本航空がこうした取り組みを始めた背景には、どんな事情があったのだろうか。

  • ジェイエアのE170。これの胴体をストレッチしたのがE190である

訓練された通りに仕事ができるように

軍隊には「訓練された通りに戦え」という金言があるが、他の分野にも共通する話であろう。できるだけ仕事の現場に近い状況下でトレーニングすることで、本番になっても慌てずに対応できるようになる。

航空会社でそれを早くから実践していた事例としては、モーション機能やビジュアル装置を備えたフライト・シミュレータ(厳密にいうとFFS : Full Flight Simulator)が挙げられる。

ビジュアル装置の映像はあくまでコンピュータ・グラフィックだが、それでもコックピットの外の様子を描き出せているし、昔と比べると映像の質は向上している。モーション機能があるから、操縦操作に伴う姿勢変化のみならず、離陸滑走を開始する際の「ムズムズ」も、ちゃんと体感できる。

では、その他の分野はどうだろうか。仕事の現場に近い状況を再現する方法としては、本物と同じモックアップを用意する方法があり、客室乗務員の非常脱出訓練などで実際に使われている。実のところ、パイロットや客室乗務員の訓練では「仕事の現場に近い状況の再現」が進んでいた。

また、単に本物と同じ形、同じサイズのものを用意するだけでなく、さまざまな状況を再現できなければ、訓練にならない。それを実現したくても、そのための技術や製品がなければ、どうにもならない。