宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月11日、4月5日に実施した小惑星探査機「はやぶさ2」の衝突装置(SCI)の分離運用の結果についての説明会を開催。同日時点の機体状況や、画像の取得状況などの説明を行った。

既報のとおり、SCIが作動した結果と思われるイジェクタ(噴出物)を撮影することに成功しており、はやぶさ2における工学目標のミニマムサクセスの1つ(衝突体をリュウグウに衝突させる)が完了したこととなる。

現在はやぶさ2は、ホームポジション(HP)への復帰に向けて移動を行っており、4月8日に搭載されているONC-W2によりリュウグウを補足して位置を把握、4月9日にスタートラッカ(STT)でもリュウグウを撮像し、併せてHPに向けた軌道制御(TCM1)も行ったとのことで、4月18日ころにHPに復帰する予定。HP復帰後は、本当にクレーターが形成されているのか、などの観測運用を行う予定としている。

  • リュウグウ

    4月9日にスタートラッカによって撮影されたリュウグウ (C)JAXA

取得されたデータから、SCIの分離はリュウグウの高度約500m付近で切り離されたほか、SCIの作動高度が約高度300m付近、分離時のはやぶさ2の誤差精度は10m以下、予定通りの速度で分離できたとのことで、ほぼほぼ完璧に分離できたという評価だという。

また、SCI分離運用時には、はやぶさ2のONC-W1というカメラで撮影した切り離された直後のSCIの画像が公開されたが、今回は新たに中間赤外カメラ(TIR)によって撮影されたSCI画像をつなぎ合わせた動画が公開された。

TIRによって撮影されたSCIが降下していく様子 (C)JAXA, 足利大学, 立教大学, 千葉工業大学, 会津大学, 北海道教育大学, 北海道北見北斗高校, 産業技術総合研究所, 国立環境研究所, 東京大学, ドイツ航空宇宙センター, マックスプランク研究所, スターリング大学

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    SCI分離時の動画が撮影された場所。目標中心付近と、撮影場所が異なるのは、リュウグウの自転に合わせている関係 (C)JAXA、足利大学、立教大学、千葉工業大学、会津大学、北海道教育大学、北海道北見北斗高校、産業技術総合研究所、国立環境研究所、東京大学、ドイツ航空宇宙センター、マックスプランク研究所、スターリング大学

TIRからはSCIとリュウグウの地面の両方が撮影できており、2秒に1枚の間隔で30枚ほどの画像を撮影(時間にして60秒)。今回はそれをつなぎ合わせる形で動画として公開された(SCIの回転方向は時計回り)。JAXA宇宙科学研究所「はやぶさ2」プロジェクトチーム 中間赤外カメラ(TIR)担当の岡田達明 准教授は、「リュウグウ表面とSCIを同時に捉えたが、SCIがちょうど画像の真ん中に動いていっており、かなり理想的な角度で分離されたことを示している」と説明する。ちなみに、この理想的な角度の分離には、SCIの重心のバランスが非常に重要ということで、同プロジェクトチームのプロジェクトエンジニアである佐伯孝尚 助教が火薬の位置やSCIのはやぶさ2への取り付け位置などを踏まえ、種子島で打ち上げ直前に調整用の重りをつけ、最善のバランスになるよう、細かな配慮の結果をした結果だという。

  • SCI
  • SCI
  • SCI。円錐形の構造体の中に爆薬が充填されており、爆発によって銅製のライナを放出する

理想的な角度での分離は、理想的な位置での爆発にもつながった。佐伯氏は「目標点に対し、およそ数十m以内に当たったと思っている。最悪100m以上離れる可能性もあると思っていたので、きわめて正確に作動し、衝突できたと思う」と感想を漏らしていた。

こうした高精度での分離、作動が行われたことにより、分離カメラ(DCAM3)も、かなりの画像を撮影することに成功した模様だ。週末から最初により容量のすくないアナログカメラで撮影されたデータから取得を進めているとのことで、前回の会見ではSCI作動から約2秒後のイジェクタを含む画像が公開されたが、今回は新たに作動から約25秒後でもイジェクタが生じており、2秒後のものよりも、さらに大きくなっている様子の画像が公開された。

  • SCI

    左が4月5日に公開されたSCI作動の約2秒後の画像。右が新たに公開されたSCI作動の約25秒後の画像 (C)JAXA、神戸大、千葉工大、産業医科大、高知大、愛知東邦大、会津大、東京理科大

また、より高解像度なデジタルカメラ(アナログカメラの解像度は640×480、デジタルカメラは2000×2000)の画像データも徐々に取得を進めており、今回、SCI作動の約185秒前、リュウグウ上空にSCIが降下している様子をとらえることに成功した画像が公開されたほか、作動の約14秒前や、作動の約3秒後の画像も公開。アナログ系の画像よりも鮮明にイジェクタを確認することができている。

  • DCAM3

    DCAM3のデジタルカメラによって撮影されたSCI作動の約185秒前の画像 (C)JAXA、神戸大、千葉工大、高知大、産業医科大

  • DCAM3

    DCAM3のデジタルカメラによって撮影されたSCI作動の約14秒前と約3秒後の画像 (C)JAXA、神戸大、千葉工大、高知大、産業医科大

ちなみにDCAM3はバッテリー駆動のため、バッテリーが切れると動作が止まってしまうことから、運用では、アナログカメラでの撮影をSCI作動の5分前から15分後までとし、残りのバッテリーのエネルギーをすべてデジタルカメラでの撮影にまわした結果、SCI作動3分20秒前からバッテリー容量が尽きるまで観測を行うことができたとする。その結果、SCI作動から5時間を過ぎても電波を取得できたが、実際に中身のある画像として撮影できたのは3時間程度とのことである。この時間差については、詳細なデータがそろっていないため、確定的なことは不明だが、DCAM3の温度が上昇したことによるアンプノイズなどの影響によって撮影ができなくなった可能性や、熱によってアンテナから正しい電波が飛ばせなくなった可能性などが考えられるとしている。

こうして得られた画像はアナログカメラで約500枚(すべてにリュウグウが写っているとは限らない)、デジタルカメラは3時間以上の観測ができたため、それ以上の枚数が撮像できたものと見られている。

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    DCAM3の運用結果 (C)JAXA

2回目のタッチダウンに挑戦する可能性は?

SCIが無事に作動したことで期待されるのが、クレーターが実際に生成されたか否かである。これについては、HP復帰後に、SCIが衝突したと思われる領域に対して4月23日~25日にクレーター探索運用(事後)(CRA2)が実施される予定となっている。

降下予定高度は前回のCRA1と同じ約1.7kmで、同じ領域を撮影することで、どう変化したのか、といったことを比較する。

CRA2でクレーターの生成を確認、形状などの判定からとなるが、状況次第では2回目のタッチダウンに挑む可能性もある。その場合、CRA2よりも低い高度まで降下して詳細な地図の作成なども行う可能性が高まるが、まずはSCIの衝突により、地表がどのように変化したのか、という観測が眼前の最優先になるとしている。