三菱地所とSAPジャパンは2月1日、社会課題を解決する新規ビジネスの創出を目的としたオープンイノベーションのためのコラボラティブスペース「Inspired.Lab」を東京都千代田区の大手町ビルにオープンした。2社はファシリティの運営およびプログラムを提供する。
「Inspired.Lab」では、イノベーション創出が重要なテーマとなっている大企業における、イノベーション部門の「出島」や「特区」としての、企業の枠を超えた場を提供、大企業とスタートアップのコラボレーションを生み出し、より変革が加速していくエコシステムを構築していく。
三菱地所 執行役常務 湯浅哲生氏は、「変革を起こすにはエコシステムが必要。われわれが核となって、大企業、投資家、スタートアップ、メンター、工房、アカデミアを結ぶエコシステムを構築する。われわれのエコシステムの特徴は、アカデミアと連携していること、工房を提供していること」と語った。
「Inspired.Lab」では、SAPが得意とするデザインシンキングを核として、工房でプロトタイプを作成し、大手町ビルや丸の内仲通りで実証実験を実施し、実験と検証を繰り返すことで、製品・サービス化にこぎつける。
SAPジャパン 代表取締役会長の内田士郎氏は、「国内のイノベーション創出における課題は3つのPで表される。「Inspired.Lab」はこの3つの課題を解決する手段を提供する」と述べた。
3つの「P」とは、「People(同質から抜け出し、"異邦人"と交わる)」「Process(共通言語フレームワーク)」「Place(創造性を高める環境、出島)」を指す。
「People」は同社が3月に発足したイノベーションを促進するためのオープンな異業種コミュニティ「Business Innovators Network」に参画する変革を志向する企業、スタートアップ企業、ベンチャーキャピタル/アクセラレーター、アカデミアをステークホルダーに据える。
「Process」は、実践的かつ創造的な課題解決のための形式的方法であるデザインシンキングを指す。「Inspired.Lab」では、デザインシンキングに関するプログラムの提供を行う。
「Place(創造性を高める環境、出島)」は、「Inspired.Lab」が担う。
SAPジャパンは同日、スタートアップ向けのアクセラレーションプログラム「SAP.iO Foundry Tokyo」を発表した。同プログラムは、SAPがグローバルで展開するスタートアップ向けプログラム「SAP.iO」のプログラムの1つだ。
「SAP.iO」は、法人顧客の事業やデータをスケールさせる初期段階のB2Bテクノロジースタートアップの投資事業「SAP.iO Fund」、AIや機械学習などの先端技術を用いたイノベーティブなB2Bソフトウェアスタートアップへのアクセラレーション事業「SAP.iO Foundry」から構成される。
今回「SAP.iO Foundry」において、6~10社のスタートアップを選考し、2019年6月から12週間にわたるスタートアップ支援プログラムを展開する予定となっている。支援プログラムでは、メンターによる事業戦略の構築支援、SAPテクノロジーや産業界のデータとの連携、メンターによる共同営業の推進が提供する。
メンターはSAP社内外のメンバー計75名程度で構成され、外部メンターとしては、起業家やベンチャーキャピタリスト、大企業のオープンイノベーション実践者などが予定されている。
「Inspired.Lab」の特徴の1つが、実証実験が行える場を提供できる点だが、第1弾として、WHILLと三菱電機による「パーソナルモビリティ自動運転システム」、パナソニックとLiquidによる「無人販売ショーケース」の実証実験がスタートした。
「パーソナルモビリティ自動運転システム」の実証実験は、だれもが楽しく安全に乗れる1人乗りのモビリティの提供により、既存の交通機関を降りてから目的地までの「ラストワンマイル」の移動の最適化を行うことを目指すもの。
具体的には、三菱電機と連携し、建物内のエレベーターと自動停止・自動運転機能を持つパーソナルモビリティ「WHILL自動運転システム」が通信回線でつながることにより、無人のWHILLが近づくとエレベーターがWHILLのいる階に停止し、扉の開閉を行い、目的の階までWHILLを送り届ける。
また、「無人販売ショーケース」の実証実験は、既存の冷蔵ショーケース製品と無線識別技術を活用し、Liquidの「生体情報のインデックス化」と「深層学習による高速検索」とを組み合わせることで、安心かつ安全で利便性の高い手ぶら決済を低コストで実現する。
具体的には、Liquidのドア設置専用の生体認証(指紋)スキャナーでショーケースの鍵を開け、欲しい商品を手に取るとパナソニックのRFIDアンテナが感知し、ショーケースから商品が無くなるまで高精度に追跡し、購入したと判断すると自動で決済を行う仕組みになっている。
将来的には、今回得たデータをベースにしながら、パーソナライズされたプロモーションや消費期限を考慮したダイナミックプライシングなどへ進化させ、機会ロスや廃棄ロスを極少化する最適なサプライチェーンコントロールの実現に向けた取り組みを進めていく予定。