消化剤を電解液にすることで、難燃性に対するニーズと、充放電を1000回以上行ってもほぼ劣化しない高性能な二次電池を作ることができる成果が、2019年1月30日から2月1日にかけて東京ビッグサイトにて開催されている「nano tech 2019」の、文部科学省 元素戦略プロジェクトブースにて紹介されている。

これは、東京大学 大学院工学系研究科化学システム工学専攻の山田淳夫 教授らのグループによる成果(東大からの2017年11月28日付けでプレスリリースとして発表されているほか、論文がnature energyに掲載されている)。

研究グループでは、一般的な消火剤として知られるリン酸トリメチル(TMP)に、通常の3倍の濃度の特殊な電解質を溶かすと、負極の表面に非常に安定的な無機構造の皮膜ができることを解明。これにより、消火剤系の電解液を用いても、充放電を1000回以上繰り返しても、劣化を引き起こさずに、高い性能を維持できる特性を持たせることができることを示したという。

また、正極との適合性も良好で、電圧耐性も高いことも確認しており、現在、研究開発されているほぼすべての正極、負極材料に足して、適用することができるという。

さらに、この電解液は、200℃ほどで気化して消火剤となるため、引火点がない。そのため、リチウムイオン電池などの発火や爆発事故の原因とされてきた有機電解液だが、このような消火剤系電解液を用いることで、電池の発火リスクを低減することができるようになるという。

実用化についての問題もなく、性能も十分なものが実現できる消火剤系電解液。これだけ聞くと、すぐにでも実用化に踏み切ってもよいような気もするが、最大の課題はコストが高いという点だとのことで、この点に関しては、量産効果などで低減を図っていくしかないとのこと。そのため、積極的に企業との連携を模索したい模様で、興味がある企業は山田教授に連絡をしてもらえれば、とのことであった。

なお、この研究は、文部科学省元素戦略プロジェクト(研究拠点形成型)「京都大学 触媒・電池元素戦略研究拠点ユニット」(研究代表者:田中庸裕 京都大学大学院工学研究科教授)による支援を受けて行われてきたものだという。

  • 消火性高濃度電解液

    左から、ナトリウム塩(NaFSA)、溶媒(TMP)、そしてそれらを混ぜ合わせて作られた消火性高濃度電解液(リチウム塩でも基本的には同じとのこと)