分析装置の製造・販売で知られるアジレント・テクノロジーだが、近年はもう1つ、大きなビジネスとして成長を続けているのが、装置に関するサービスやラボの効率性改善サービスなどを提供する「Agilent CrossLab Group」だという。

その事業規模は2018年度(2018年10月期)で約17億ドル。営業利益率は23%と、非常に好調な数値である。同事業グループをまとめる同社Worldwide Customer Service Organization担当のVice PresidentであるMarc Boreham氏は、「ラボ全体で、どの程度の支出があるのかを把握することと、ラボのサイエンスにおけるワークフロー改善などを含めたカスタマの総合的な効率の向上を目指したサービスを提供するのが我々。一言で言えば、デジタル化も含めたカスタマエクスペリエンスの向上をどうやって実現するのか、といった手段そのものを提供している」とその事業内容を表現する。

  • Agilent CrossLab Groupのビジネス概要

    Agilent CrossLab Groupのビジネス概要

では具体的にどのようなものが提供されるのか。ラボを運用する際には、アジレントに限らず、競合メーカーの分析装置を含め、さまざまな機器が存在し、それら1つひとつに対し、ラボマネージャーがメンテナンスやコンプライアンス対応などを考え、それぞれの機器ベンダと、そうした契約を個別に行なう必要があった。アジレントは、これをラボ全体のライフサイクルと見立て、トータルラボソリューションとして、企業の垣根を超えて対応するサービスを提供しようというのが基本的な考え方だという。

  • Agilent CrossLab Group

    Agilent CrossLab Groupのビジネスの方向性

そのため、アジレントでは、他社の装置のメンテナンスなども含めたサポートを3000名規模の体制で進めているとのことで、彼らがラボマネージャーの代わりに、コンプライアンス対応やメンテナンススケジュールの策定、あげくは他社の装置の購入に向けた価格交渉などを担おうとしている。

  • ラボ向け生産性向上サービス
  • ラボ向け生産性向上サービス
  • ラボ向け生産性向上サービス
  • ラボ向け生産性向上サービス
  • アジレントの提供するラボ向け生産性向上サービスの概要

「アセット(資産)の管理もかなり重宝されている。大きな企業や機関であれば、数百台の機器が設置され、どこで何をしているかがわからない状況になることも多い。そうした問題を解決するべく、こうしたサービスの提供に踏み切った。各装置の稼働率などを把握することもできるので、これまで100台あった装置を、ある程度の期間の稼働率を踏まえて、次の更新タイミングでは10台減らせます、といった提案もできるようになる」(同)といったような、ラボの効率化支援のほか、「ラボのサイエンスに関わらない質問も来る。中でも多いのが、どうやったらコスト低減ができるのか、それを予算内でどうやって実現するのか、といった相談で、そうした相談に対しても、我々なりの解決策を提案することができる」とし、実際にとある製薬企業では、3万台の装置の稼働率を見直すことで、2万5000台に削減することに成功。併せてメンテナンスコストも低減できたとするほか、その後も価格交渉やアセットの管理を進めることで、現在でもコスト削減を提供し続けることに成功しているとする。

また、他社から装置を調達する際には、一切、装置購入にかかるマージンを受け取ることはないという。「我々がいただくのは、あくまでマネジメント代。パーツに対して、金額を上乗せしていく、ということはない。コストの削減手法としては大きく2種類が考えられる。1つはパーツの購入価格そのものを下げること。もう1つは、サービスのスケジュールの見直しをユーザーと一緒に行なうというものだ。例えばすべての機器を年1回メンテナンスするという契約から、稼働率の高いものは年に複数回メンテナンスを行なうが、低いものを2年に1回にするといったアプローチなども考えられる」とのことであり、単なる装置レベルのサポートから、ラボそのもの、そして企業そのものへとスケールできるサービスであるという。

  • CrossLab Connect

    アジレントの提供するCrossLab Connect。ラボに設置されている各種装置の稼働率などを把握し、効率化を可能とする

そうした同社のサービス事業だが、現在、もっとも注力しているのがユーザーへのトレーニングだという。「業界全体の流れとして、装置やソリューションは複雑化する一方で、エンドユーザーの技術レベルは、全員がそれに併せて高くなっていっているとは言い難い。そのギャップをなんとか埋めたいというニーズは根強く存在しており、さまざまな角度からのトレーニングの提供を進めている」とする。

「データが無ければ提案も出来ない。そうした各種のデータの収集が重要となる」と同氏。現在、装置レベルのネットワークから、システムレベルまで接続されることを目指したソリューションの提供を開始したとのことで、これを活用することで、自動的にどこどこの装置の消耗品があとどれくらいでなくなりそうだ、といったことがアラートとして担当者のスマートフォンに送信したりすることができるようになるという。「今後、アジレントの装置に続々と搭載されていく予定で、これによりメンテナンスタイミングなどがはっきりとわかるようになる」という。

加えて、装置導入後、導入先でしっかりと稼動できるようになるまで、同社のエンジニアが現場から離れずにサポートを行なうというサービスの提供なども進めているという。

こうしたさまざまなサービスを提供することで事業機会を拡大してきた同社だが、2019年には新たなステップをさらに踏む見通しだという。

具体的には、装置の状況やオンライン教育の状況など、すべての状況を一か所で把握できるポータルのような存在の提供を春先にかけて開始する計画だという。しかも、サブスクリプションベースのビジネスモデルを採用するとのことで、現在、そのサービスの規模感などについての検討を進めている段階にあるという。「すでに日常生活の中にサブスクリプションモデルは浸透してきており、その体験はラボの世界にも入ってくることが想定される。この取り組みは、そうした時代の流れに沿ったものだと考えている。我々は提供するすべてのサービスをサブスクリプションモデルへと移行したいと思っている。よりユーザーと長期間の関係性を構築するためのビジネスモデルだと思っている」とのことで、これまで以上にサービスを活用してもらうために、サブスクリプションモデルが必要になると同氏は説明する。

  • サービスの差別化に向けた取り組み

    サービスの差別化に向けた取り組み。2019年春にはサブスクリプションモデルによるサービスの提供を開始する予定

なお、日本としては大企業などへのアプローチが中心となるとするが、「ただの修理やサプライの供給だけではなく、OEM側にいろいろとやってもらいたいというニーズは感じている。そのためのデジタル化である。市場規模を見ても、国別であれば日本は米国、中国に次ぐ規模で、非常に重要な地域であると我々も認識している」とのことで、日本企業が抱えるエンドユーザーのギャップをいかに埋めていくか、という課題解決に向けたサービスの提供を行なっていくことで、市場成長を図って行きたいとしていた。