民間のロケット開発というと、日本ではインターステラテクノロジズ(IST)が良く知られているが、もう1つの有力企業がスペースワンだ。この会社はほとんど情報を外部に発信しておらず、実態が謎に包まれていたが、11月29日、国際航空宇宙展2018のセミナーに同社の阿部耕三取締役が登壇、同社が目指すビジネスについて紹介した。

  • セミナーは撮影禁止だったため、残念ながら写真は無し

    セミナーは撮影禁止だったため、残念ながら写真は無し。とりあえずクリスマス仕様にした我が家のネコの画像でもご覧ください

情報が無いのになぜ「有力企業」と言えるのかというと、株主がキヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行という、各業界で実績のある4社だからだ。特にIHIエアロスペースは、イプシロンロケットなど、日本の固体ロケット開発・製造に古くから関わってきた。バリバリの宇宙メーカーである。

またキヤノン電子は、最近では衛星開発にも乗り出しているが、もともと民生機器のメーカーとして、量産やコストダウンにノウハウがある。清水建設は月面基地の研究などに取り組んでおり、射場の建設にも適任。そして何より、ロケット開発に必要なのは潤沢な資金だ。銀行がバックにいるというのは、他社には無い大きな強みだろう。

阿部取締役は、この株主構成が同社のコアコンピタンスだと説明。「電気、重工、ゼネコン、銀行の異業種協働により、イノベーションが生まれるだろう。我々自身にはまだ知名度は無いが、この4社の信頼に支えられて我々がいる。経営の安定性は、他のベンチャーとは一線を画している」とアピールした。

同社が狙うのは、超小型衛星の打ち上げ市場だ。調査によれば、2012年あたりまではそれほど変化は無かったが、2013年以降に機数が大きく伸びてきているという。世界各国で、リモートセンシングや高速通信の大規模コンステレーションの計画があり、そのほか人工流れ星や、デブリ除去など、ユニークなミッションも立ち上がりつつある。

同社が目指すのは、気軽に利用できる「宇宙宅配便」(同)だ。阿部取締役は「非常に多様なプレイヤーが超小型衛星でビジネスをしようとしている。我々はその宇宙事業を支える存在になりたい」と意気込む。

コンステレーションの場合、インフラ構築時は大型ロケットでまとめて打ち上げる方がコスト的に有利だが、構築後のメンテナンスで1機ずつ打ち上げるには小型ロケットが必要。1機だけ打ち上げる場合、大型ロケットへの相乗りという手段もあるが、専用の小型ロケットならば時期も軌道も自由に選べる。

ロケットの能力については、同社のWebサイトにてすでに公開されている。グラフを見ると、高度500kmの太陽同期軌道(SSO)に150kgを打ち上げられるようになる模様で、先頃商業打ち上げに成功したRocket Labの「Electron」ロケットと、ほぼ同等の性能を狙っていることが分かる。

  • 打ち上げ能力のグラフ

    打ち上げ能力のグラフ(同社Webサイトより)

同社のロケットについて、詳細は明らかになっていないものの、固体ロケットであることは間違いないようだ。固体ロケットの即応性、信頼性、低価格といった特徴を活かして、同社が目指すのは「世界最短」と「世界最高頻度」の打ち上げサービス。具体的には、「契約から打ち上げまで1年以内」、「2020年代半ばに年間20機」という数字を挙げた。

世界最短のためには、機体の製造能力はもちろん大事であるが、阿部取締役は「法的手続きの迅速性」も重視しているという。海外顧客の場合、衛星を日本国内に持ち込むためには、通関や輸出入の手続きが必要だ。そういった手続きがスムーズにいくかどうかは、政府支援も必要かもしれない。

「固体ロケットのメリットは、射場での作業が楽なこと。燃料が充填された状態で射場に運ばれるので、射点に設置したらすぐに打てる」と阿部取締役は説明。「射場で衛星を受領してから、4日以内に打ち上げる。顧客のコスト削減にもつながるので、そういう付加価値も押し出していきたい」とアピールした。

そして世界最高頻度のために、問題となるのは射場だ。日本で衛星打ち上げに使っている射場は、今のところ種子島と内之浦にしかない。2カ所とも宇宙航空研究開発機構(JAXA)の施設であるが、同社が年間20機も打ち上げるとなると既存設備を借りるのは難しく、柔軟な運用を行うためには、専用の射場または射点を新設する必要がある。

一部報道では、和歌山県に射場を建設するという話も出ていたが、阿部取締役は「検討中」として、明言は避けた。現在、有力な候補地がいくつかあり、国内外の既存の射場を借りるか、あるいは新規に建設するか、両面で検討を進めているとのことで、「そう遠くない将来に決めて発表したい」と述べた。

同社は、初号機の打ち上げを2021年後半に予定している。これまで、JAXAの「SS-520」ロケット4号機/5号機において、キヤノン電子がアビオニクスを提供し、機能を実証。初号機ではこれをさらに強化し、自律飛行安全方式を実装した上で搭載する予定だという。すると地上のレーダーなどが不要になり、初期投資の削減に繋がる。

  • SS-520ロケット5号機

    SS-520ロケット5号機。今年2月、超小型衛星の打ち上げに成功した

ただ、いきなり本番で使うわけにもいかないため、初号機の前に、この新方式のアビオニクスを他のロケットに搭載して、飛行実証する計画。ロケットではなく、飛行機やドローンを使う可能性もあるそうだ。