「ながら聴き」という音楽の聴き方をご存知だろうか? 2017年2月、「聴きながら、聞こえる。聴きながら、話せる。全く新しいイヤホン」をコンセプトに「ambie sound earcuffs(アンビーサウンドイヤカフ)」が発売された。
同製品を提供する「ambie(アンビー)」は、WiL とソニービデオ&サウンドプロダクツの共同出資を受け、2017年1月に設立した会社だ。
同社が提供するイヤホンは、耳穴を塞がずに挟んで装着するアクセサリーのような形状で、周囲の音や声を遮断することなく、音楽を楽しめる新感覚のオーディオデバイスだ。
家電量販店ではなく、ビームスや蔦屋書店などのファッションやライフスタイルを提案するショップに並んだambie sound earcuffsは、発売開始から4日間で商品が完売した。
紆余曲折を経て生まれたambie sound earcuffs
ここまで聞くと「最初から成功していた」と受け取る人も多そうだが、実態はそうではない。予定どおりにいかなかったことは数多く、開発者らはその都度“地図”を大胆に描き変えてきた。
中心に立つ開発者であり、ソニービデオ&サウンドプロダクツ(ソニーV&S、以下ソニーと表記)でイヤホンを多数開発してきたambie プロダクトディレクター 三原良太氏は、「予想を超える反響で、工場に追加生産を急いでもらおうと、必死で電話対応をしていました」と振り返る。
三原氏は2017年1月ソニーを飛び出し、WiLとジョイント・ベンチャー、ambieを起ち上げ、ambie sound earcuffsの開発を担ってきた。
ソニーといえばイヤホンは主力商品のひとつ。なぜ、あえてソニーの“外”に出る必要があったのか。ambie代表であり、WiL 共同創業者ジェネラルパートナーを務める松本真尚氏に両社の狙いや製品ができるまでの裏話を伺った。
技術を持った大企業と組んで新たなビジネスを創る
本題に入る前に、ソニーとWiLとの関わりについて、2014年まで遡って振り返りたい。同年、WiLはソニーとの協業で、ジョイント・ベンチャー、Qrio(キュリオ)を起ち上げた。
Qrioは現在、日本を代表するスマートロックを開発・販売する企業。創業2年で3商品を生み出し、スマートホームという新興市場で確かな存在感を示している。
2017年11月にはソニーコンピュータサイエンス研究所、WiL、UEIで ヒトと人工知能(AI)の共生環境構築を目的とした合弁会社、GHELIA(ギリア)を発足させたのも記憶に新しい。
WiLはベンチャー投資事業だけでなく、ソニーのような大企業とパートナーシップを組んで、新規事業を創出するのを目的に、ジョイント・ベンチャーの立ち上げやスピンアウトなどのビジネスクリエーション事業に注力してきた。
「平井一夫さん(現ソニー会長)とお会いして、うちのファンドに出資してください、とお願いしたところからソニーとの関係が始まっています。研究所や社内に話を聞きにいかせていただくなかで、素晴らしい技術を持ったソニーが、私たちと組むことで新しい産業ができるのではと確信していました」(松本氏)