マクロミルは、多彩なパネルと、貴重な生活データを企業向けのマーケティングリサーチサービスに活かしていこうと動き出している。その1つが、9月に子会社であるセンタンと共同で動画マーケティング支援サービスの拡充へ向けて、生体データを活用した「独自ノーム値」だ。

「ノーム値というのは、評価基準のことで、動画に対する共感度、注目度、感情関与、記憶保持といったものを脳波で検証し、アンケートで主観評価も加えます」と語るのはセンタン 営業部長の坂本哲夫氏だ。

  • センタン 営業部長 坂本哲夫氏

センタンでは脳波や心拍数、皮膚電気反応などの生理指標から明確に現れない感情や気持ちの変化を測定し、解釈しながら行うビジネス・コンサルティングサービスを提供している。このうち、脳波を測定して動画パワーを評価するが、新サービス「ムービーカルテ」だ。

「脳波は人によって違いますが、多数のものを重ねて表示することで、同じ傾向を示す部分に注目します。多くの人が共感する反応を見せた、というように分析するわけです」(坂本氏)

  • 測定中の脳波

どの部位の脳波が何を示しているのかというような情報と、センタン独自の脳波同期性に着目する指標とを組み合わせることで、動画に対してどういう反応だったのか、特定属性の人がどうだったのか、といったことを明らかにする取り組みだ。

  • 脳波同期性

「お客様への納品形態としては、お客様の動画全体の同期性や時間軸での消費者の感情変化などの評価結果、平均的な動画よりも共感度が高かった、というような平均値との比較と、特にポジティブな共感度が高かったシーンやネガティブな共感度が高かったシーンについて、センタンの認知心理学専門家からのコメントを添えて提供しています。」(坂本氏)

現在はその平均値を取得するために、トライアルサービスとして安価に利用可能にしている段階だ。

具体的には、毎月1回決まった時期に、30名の被験者による評価が行われる。30名の内訳は、20歳から59歳の男女を年代および性別ごとに同人数が参加。実際の人口比等には対応させない。トライアル中はこの基本プランのみだが、正式にサービス化した際には、ユーザーの希望に応じてターゲット層となる被験者を追加することも可能になる予定だ。

「利用イメージは、ムービーカルテで得た動画の評価を次回の動画制作に活かしてもらうことを考えています。ABテスト的な使い方には現段階では向いてないと考えています。もちろん、お客様にそういう意図でご利用いただくのは大歓迎ですが、月に1回実施ということでタイミングが合わない、広告動画の制作スケジュールはかなりギリギリで進行していることが多く、絵コンテのような形ではなく、評価できるような完成状態のものを事前に複数用意するというのが難しいためです」と坂本氏は語る。

例えば、30秒のCMと15秒のCMを評価した結果、同じ素材を使いながら評価の低い15秒CMは、詰め込みすぎで内容が伝わらないからだと判断した後、簡単な編集で改善できることもあるという。普通に動画を見てわかるストーリーのおかしさやつながりの悪さではなく、なんとなく違和感がある、届けたい情報が届いていない、というような微妙な部分を検証できるのが特徴だ。

「ムービーカルテは上市後の動画評価を基本としていますが、お客様からは昨今多くなっている炎上騒ぎを回避したいという要望もあります。ニューロリサーチでは秒単位でどういう反応があったかはわかるので、そこからさらに具体的に何がポイントだったのかを探りたいという場合には、インタビューで深掘りするようなことも可能だと思います」(原氏)

「ムービーカルテ」は、あくまでも動画を見た人がどういう印象を持ったか、どんな感情を持ったか、ということを評価するサービスだ。認知度の向上や商品理解といった目的を果たせるものであるかどうかは評価できるが、最終的に実際の購買に繋がるかまでは判別できない。そこは、動画の評価と企業が自社の購買に繋げるための分析データを組み合わせて判断する部分だ。

まずは、トライアル価格で提供することでサンプルを集め、ノーム値の開発を行う。 「12月までトライアルを実施し、100本の動画に対する評価を蓄積したいと考えています」(坂本氏)

もちろんサンプル数は多いほどよいが、サービス化初期段階では幅広く見た人がどう思ったかという評価になりそうだが、ノーム値が確立できれば、特定年代や性別を指定しての評価はもちろん、業種を絞って「業界の平均と比較してどうだったのか」、「同年代をターゲットとしている別分野の動画と比較してどうだったのか」というような絞り込んだ評価も行えるようになる。脳波を活用することでこれまで可視化・定量化しにくかった動画パワーやシーン毎の情緒的な反応が把握でき、より深いマーケティングリサーチが可能になるはずだ。