コンビニや駅のKIOSKで気軽に買えるチューインガム。その市場の縮小が止まらない。日本チューインガム協会がまとめたところによると、約10年前の2007年に1677億円だったチューインガムの小売金額は、この10年で1005億円規模にまで縮小。毎年、3~7%程度減少を続けており、1000億円を割り込むのも時間の問題で、最近では江崎グリコが1987年から販売してきたガムブランド「キスミント」の終了が明らかになったばかりだ。
こうした市場環境に対して、メーカー企業はどのような戦略で新たな需要喚起と市場回復を目指しているのだろうか。「クロレッツ」や「リカルデント」などのブランドを展開し、ガム事業においては国内第2位のシェアを占めるモンデリーズ・ジャパンの取締役でガム・キャンディ部門を統括する森 繁弘氏に、今後のマーケティング戦略を聞いた。
なぜガム市場の縮小は止まらないのか ~ その背景にあるメーカーの要因
街中に目を向けると、チューインガムは駅のKIOSK、コンビニのレジ前、スーパーのお菓子売り場やレジの周囲、高速道路のサービスエリアなど、至るところに陳列されていることに気がつくはずだ。しかし、チョコやビスケットなど他の菓子カテゴリーが成長するなか、なぜガムの小売金額は減少に歯止めが掛からないのだろうか。森氏はその要因について「ガムに対する関与度の低下」を挙げる。
森氏によると、ガム市場の低迷が本格化したのは2000年頃から。その要因には、さまざまな要素が複合的に絡み合っているという。例えば、仕事のリフレッシュや運転中にガムを欠かさず愛用してきた消費者層が定年退職などでリタイアしたことで、消費の中心だった労働人口が低下したこと。また、可処分所得の問題で多種多様なお菓子の選択肢のなかであえてガムを選ばなくなってしまったこと、さらには喫煙率の減少など。森氏は、こうした要因を“マクロの要因”と指摘する。
一方で、ミクロな要因として、森氏はメーカー側が低迷するガム市場を復権させようとSNSなどで拡散する話題作りを目的としたプロモーションを数多く展開していったことを挙げる。
「ガムの本質的な部分に触れず、著名なタレントや面白いCMに依存して話題作りを狙った結果、一時的に売上には影響があるものの、継続的にガムの魅力を伝えるということを怠ってしまった時代がある」(森氏)
ガムは、仕事やドライブの合間にリフレッシュしたり、集中力を高めたりする目的で楽しむことが本来の存在価値だといえる。しかし、そうしたひとつの“食文化”を若い世代に伝える前に、話題作りを先行してしまったことで、ガムが本来持つ魅力が世の中に理解されなくなっていったのだ。
「2000年以降、消費の低迷が加速するなか、ガムにとってはライバルが増えているのが現状だ。気分のリフレッシュという意味では、ミントタブだけでなく、コーヒーやグミ、チョコレートなども競合になってきている。その中で市場を維持していくためには、ガムが本来持つ魅力を改めて伝えていかなければならない。“お口のリフレッシュ”という機能的なメリットだけでなく、その他のさまざまなものと組み合わせた感情的・情緒的な価値を提案していかなければならない。単なる話題づくりではなく、日常のなかでガムが役に立つシチュエーションを提案することが重要だ」(森氏)
プロモーションを通じて、ガムを日常に密着した存在にしたい
森氏が提起するこうしたマーケティングの課題は、9月に始まった新たなプロモーションにも反映されている。イメージキャラクターに俳優の岡田将生さんを起用したテレビCMでは、食後の息が気になる出演者たちが、職場で息への不安からジェスチャーで仕事の要件を伝えようとして会話が噛み合わなくなるというシーンをコミカルに演出している。このCMの面白さだけで話題になりそうだが、その裏には“食後にガムを噛むことで、息への不安に制約されずに会話できる”というガムの魅力をストレートに伝えることに繋がっているのだ。
森氏によると、こうしたプロモーションの背景として、ガムを噛むシチュエーションとして“職場でのリフレッシュ”を重視しているのだという。ただ、同じ職場のリフレッシュというテーマでは、コーヒーやチョコレートなどビジネスパーソンにとっての選択肢は幅広い。そこで、ガムの関与度を高めるために“職場でのリフレッシュによって息への不安を解決してコミュニケーションを円滑にし、人々の距離が縮まる”というシーンを訴求したのだ。
「自社の調査によると、海外では自分の息がスッキリしていると自信に繋がるという意見が多いが、日本では安心感に繋がるという意見が多い。他の人を(口の臭いで)嫌な気持ちにさせないという日本人ならではのエチケット意識が強い。そういう意識を改めて喚起させるプロモーションを企画した」(森氏)
これはガム市場に限ったことではないが、消費を拡大させるために重要なのは、その商品が必要とされる文化や習慣、ライフスタイルを生み出すことだ。これは多くの企業がブランドマーケティングのテーマに掲げていることで、クロレッツのプロモーションでテーマとなった“職場のコミュニケーションにおけるエチケット”も、そのひとつだと言える。
この点について森氏は「今後、ガムの消費を復活させるためには、ガムがより生活に身近なものとして受け入れてもらい、ガムを噛むことを習慣にしてもらうためのアプローチが必要だ。また、モンデリーズはガム市場で世界2位の企業だが、基幹商品だけでなく従来の日本市場にはない新商品を積極的に展開していくことで、ガムを手にするきっかけを生み出していくことも重要だ」と語った。