ソフトバンク 代表取締役 副社長執行役員 兼 CTO 宮川潤一氏

ソフトバンクは9月28日、IoTデバイス向けのLTE通信規格「NB-IoT」において、3GPP(3rd Generation Partnership Project:移動通信システムの仕様を標準化するプロジェクト)で新たに規格化されたNIDD(Non-IP Data Delivery)技術の商用環境における接続試験に成功したと発表した。

NIDDは無線空間をIPアドレスなしで通信可能な技術で、NB-IoT/NIDDに対応したデバイスから基地局まではIPアドレスを用いずに通信し、IoTプラットフォームまではIPアドレスを用いて閉域網で接続する。

今回、NIDDの接続試験に成功した商用環境は、Microsoft Azure、Amazon Web Services、Google Cloud Platform、Alibaba Cloudといったパブリッククラウドだ。

  • NIDD技術を使用したデータ通信のイメージ

代表取締役 副社長執行役員 兼 CTOの宮川潤一氏は、「NIDDが、われわれのIoT戦略が抱える3つの課題を解決する」と語った。

3つの課題とは「セキュリティ」「消費電力の削減」「大量展開の容易性」だ。宮川氏は「IPアドレスを利用する際、いいことと悪いことがある」と指摘した。通信にIPアドレスを利用すると、デバイスの場所が特定できるため、攻撃にさらされるリスクが高まる。実のところ、昨年はIoTデバイスを狙うマルウェア「Mirai」が大規模な攻撃を引き起こし、話題になった。つまり、IPアドレスを用いずに、制御メッセージにデータを乗せて通信するNIDDはこうしたリスクを回避できる。

加えて、インターネット部分の通信に閉域網を利用することで、外部から完全に遮断し、セキュリティの強化に一役買う。これを、宮川氏は「脱インターネット」と表した。

また、同社はIoTネットワークの消費電力を削減するため、デバイスの通信状態を減らす技術「eDRX」を導入し、通信データ量を減らすことを目的としたプロトコルの最適化を図っている。消費電力については、セキュリティを強化する暗号化が不要になるため、その分削減が見込める。データ の削減としては、IPベースのヘッダーに比べ、NB-IoTのヘッダーは約80%削減されているという。それでも、宮川氏は「IoTの普及に向けては、もっと消費電力を減らす必要がある」と話した。

NIDDを利用すると、IPヘッダーが削除されるため、NB-IoTのヘッダーからさらに約70%減り、データが軽量になるという。宮川氏は、通信データを削減すると通信成功率が上がるため、二次効果として通信エリアの拡大が見込めることにも言及した。

3つ目の課題である「大量展開」については、NIDDに対応したデバイスは初期設定が不要で、電源を入れるとすぐに使えるため、導入が容易だという。こ

宮川氏は、「3GPPの標準化から3カ月で、NIDDを完成させた。急いだ分、バグもあるので、これから対処していく。しかし、こうでもしないと、IoTが広がらないと思う。来春をめどに、NIDDを完全にオープンさせる」と話した。NIDDのこうした特性から、今後、防犯や社会インフラ、農業などの事業・領域で対応するデバイスを順次投入し、商用化を目指す。

説明会では、NIDDとMicrosoft Azure、Amazon Web Services、Alibaba Cloudとの接続のデモが披露された。デモでは、室内の温度と湿度を取得して、各パブリッククラウドに送信して、それぞれのサービスを用いたデータ活用の様子が紹介された。

  • NIDDに対応したクアルコムのチップセット「MDM9206」を搭載した端末

  • NIDD対応端末から各パブリッククラウドに送信されたデータ

  • Microsoft Azureにおける実証実験の環境

  • Amazon Web Servicesにおける実証実験の環境

  • Alibaba Cloudにおける実証実験の環境

宮川氏は「ぜひドコモもauもNIDDを導入してもらいたい。そうすることで、日本でNIDDが動く環境が増やすとともに、メーカーには対応するデバイスを作ってもらい、IoTのためのエコシステムを作っていきたい」と、国内のIoT普及に向けて抱負を語っていた。