独Siemensの日本法人であるシーメンスは9月6日、8月頭に発表した新たな事業戦略「Vision 2020+」に至った背景や、今後の方向性などについての説明会を実施。日本でも組織再編を進め、デジタル化の推進とインフラの整備の両輪を並行して進めていくことを明らかにした。

2014年、同社は2020年に向けた事業戦略「Vision 2020」を掲げていたが、実は、この掲げていた目標をすでに達成してしまったことから、新たにさらに上の目標を掲げ、その実現を目指すのが「Vision 2020+」となる。

「四半期業績も株価も好調。それにも関わらず、なぜ変革か。それは、自社が強力なポジションにいるときこと、変革をしやすいためだ」とシーメンスの代表取締役社長兼CEOである藤田研一氏は、Vision 2020+の策定に至った背景を説明する。

  • シーメンスの代表取締役社長兼CEOである藤田研一氏

    シーメンスの代表取締役社長兼CEOである藤田研一氏

元々、Vision 2020を打ち立てた2014年ころの同社の業績は、今ほどは良くなかった。そこで、2020年までにポートフォリオの中でもコア事業を強化して、スケールアップしようということで、戦略的な方向性を打ち出したのがVision 2020であり、オペレーションの統合と最適化を継続的に進めてきたことで、現在の好業績に至ったとする。

  • Vision 2020+へと至る道程

    Vision 2020+へと至る道程

変革への対応=デジタル化への対応

シーメンスの過去を振り返ると、この15年で事業の半分を入れ替えてきたという。その中の1つに、デジタル関連事業の強化がある。同事業の過去3年間の成長率は80%で、事業規模は約6800億円にまで育ってきた。「産業用途に限定すれば、ソフトウェア企業としては世界十指に入る」(同)という規模であり、中でも同社が提供する「MindSphere(マインドスフィア)」は、全世界で100万台の機器が接続する世界最大級の産業機器向けIoTプラットフォームへと成長を遂げることに成功した。

Vision 2020+でも、こうしたデジタル化への対応の手は緩めない。その大きな一手が組織の大再編である。社内で進めてきた事業と合弁会社を、3つの戦略会社と3つの社内カンパニーに再編することで、どういった産業に注力していくのかを明確に示す形としたのだ。

3つの戦略会社は、スペインGamesaとの合弁による風力発電事業会社「Siemens Gamesa」、医療事業を独立させた「Siemens Healthineers」、仏ALSTOMと鉄道事業を合併させた「Siemens ALSTOM」となっている。

  • シーメンスの組織再編

    3つの戦略会社と3つの社内カンパニーに組織を再編

一方、社内カンパニーとしては、ガス火力発電や送電、オイル&ガス分野などを手がける「ガス&パワー(GP)」、デジタルグリッドやビル制御などのインフラ関連を手がける「スマートインフラストラクチャ(SI)」、そして、以前デジタルファクトリーと同社が語っていたファクトリーオートメーション(FA)やモーションコントロール、ソフトウェアなどを手がける「デジタルインダストリー(DI)」の3事業会社体制に分けられることとなる。シーメンスPLMソフトウェアやマインドスフィアといったソフトウェア関連は、このDIカンパニーに属することとなる。

  • 3つの社内カンパニーそれぞれの事業領域

    3つの社内カンパニーそれぞれの事業領域

「デジタル化、という言葉で認識しておくべきは、あまりにその伸びが急峻であるということ。シーメンスの例を挙げると、独アンベルクの工場で1990年代からコントローラの製造を行なってきているが、デジタル化により現在の生産性は工場規模も従業員の数も増えていないにも関わらず13倍に向上している。フルデジタル化により実現されたもので、リアルタイムによるモニタリングの実施で、不良率99.9999%の高品質を達成しつつ、120以上の製品パターンを1日で変更して対応したり、350回の仕様変更に対応することを可能とした」とし、デジタル化が今後の製造業の重要な鍵を握ることを強調した。

日本でもVision 2020+の実現に向け組織を再編

日本法人であるシーメンスについても、DI、GP、SIの3つのくくりで組織再編を進めていくことを明言。それにより、デジタル化の推進とインフラの整備の両方を同時並行で進めていくとした。

ただし、「デジタル、ソフトウェアと言っても、ハードウェアがなければ使えない。マインドスフィアにしても、コントロールユニットがなければ使えない。決してデジタルだけをプッシュするのではなく、ハードウェアと一体化して整備を進めていく必要がある」ともし、すでに産業分野で年内に50社程度がマインドスフィアを導入する見通しであることを明らかにしつつ、さらに普及させるためには、どうしたハードウェア含めたインフラの整備が重要となるとし、基盤となるFA領域について重視していく姿勢を見せた。

また、あくまでマインドスフィアはオープンイノベーションの存在であるとし、「クラウドとエッジを考えた場合、マインドスフィアはクラウドであり、エッジのFAメーカーなどとは目的が異なるので共存できると思っている」と、必ずしも、クラウドからエッジまで、自社の用意したプラットフォームしか使えない、といった環境を提供する意思がないことを説明。パートナーシップの強化によるエッジとクラウドの共存こそがマインドスフィアの目指すものであるとしていた。