ポイントは「締切」「競争+自由参加」「教育プログラム」

齊藤氏は、イノベーションがうまく起こせないケースでは、時間、意欲、方法に何らかの課題があることが多いと話す。例えば「業務に追われ、新しいことに取り組む時間が作れない」「新しいことに取り組む意欲がわかない」「どう作ればいいかわからない」などだ。

これはRPAの取り組みでも同様で、「普段の業務が忙しく、ロボット開発どころではない」「ロボットを作ることに興味がない」「やり方がわからない」というケースが往々にして起こる。そのため、RPA導入では、特定の部署や職種に絞ってスモールスタートすることが成功の秘訣とも言われている。

メタルワン 経営企画部事業開発企画室 兼 デジタル・イノベーション室 柿原寿美氏

そんな中、メタルワンでは、最初から特定の部署や職種に絞るのではなく、「好きな人が時間を見つけて自由に取り組んでいけばいい」というスタンスで臨んだ。ロボットコンテストのプロジェクトを実際に推進した経営企画部事業開発企画室 兼 デジタル・イノベーション室の柿原寿美氏はこう話す。

「強制しても期待したようには進みません。まず、手を上げた人だけが気軽に参加できる方式にして、期限も区切りました。また、つまずいても進めるように研修やサポートを手厚く行いました。時間、意欲、方法という3つの要素で言えば、時間については締切、意欲については競争+自由参加、方法については、教育プログラムがポイントです」

教育プログラムは、7月にエントリーした後、8月の1カ月間に集中して実施される。外部から専門家を招き、2時間半の研修を計8回。サポートは、現場の実態やITを知る小林氏、柿原氏らが分担して、ツールの使い方や業務への適用のアドバイスを行い、悩み相談も随時受け付けた。

「業務を整理して文書に落とし込んでからロボットを作るのですが、この文書化の作業が大きな手間でした。システムのフローチャートのように書き出すのではなく、まず箇条書きで整理してもらうようにして、抵抗感をなくすようにしました。一度ロボットを自分で組み立てることができると、難しいからわからないということはなくなります。いろいろと工夫しながらどんどん作っていくことができるようになります」(小林氏)

第1位を獲得したのは経理部隊が作成したロボット

RPAツールは、ユーザーの使いやすさと管理性、価格を評価してNTTデータの「WinActor」を採用。初年度は受付で120案件、応募文書が90件、最終的に提出された79台のロボットを20台に絞って審査を行った。

2017年の審査会でトップを獲得したのは、営業現場をサポートする営業管理部門の経理部隊が作成したロボットだ。決算情報から特定の数値を抜き出して、実績とのチェックを自動化するもので、ファイルが特定のフォルダ上に生成されたらロボットを自動起動するといったさまざまな工夫を施したことが評価された。

2位は、営業部門が作った取引先ごとの代金の限度をチェックするロボット。従来は基幹システム上から取引先のデータをダウンロードし、Excelシートに展開していたが、必要なタイミングで情報を見に行く必要があった。それをプッシュ型でアラートを通知するようにし、営業全部門が汎用的に使える仕組みを構築した。

「手作業やExcelのマクロで個別対応していた作業を自動化して、誰でも簡単に汎用的に利用できるようにすることがRPAのポイントだと思います。営業部門が作成したロボットのように、従来の業務プロセスそのものが改革されたケースもあります。コンテストという"お遊び"として見られがちなのですが、業務への確かなフィードバックが得られたことで、最終的には当社に欠かせない取り組みになったと思います」(柿原氏)

齊藤氏は、コンテストを通して見えたRPA推進のポイントとして、「複雑な業務は向かない」「業務整理・ロボット化の文書化は必須」「社内でのリード役、支援体制構築が必要」「専門家による複合的な支援が必要」の4点を挙げる。

RPAを集中管理しガバナンスを確保、本格活用へ

初年度の成果を受けて、今年は本格活用のフェーズに移っている。まず、開発/運用プロセスや業務整理/ロボット化文書、テスト計画/結果報告書、利用申請書、チェックリストといった社内規定を整備した。これらにより、誰でも作成できる環境を整え、網羅性や証跡の担保するなどRPA活用に向けた内部統制の確保を行っている。

ロボットコンテストも昨年に続いて実施中で、支援やサポート体制を中心に強化を図っている。また、WinActorをサーバ上で集中管理する「WinDirector」を導入し、"野良ロボット"などの課題を防ぎ、ガバナンスとコンプライアンスを確保できるようにした。

現在は、すべてのロボットが仮想環境で稼働し、集中管理する体制を構築中だ。ロボットによっては基幹システムへのログイン情報などが画面表示されたりするケースがあるが、仮想環境で稼働しているため、それらの画面自体が閲覧できない仕組みだ。

  • ロボットを集中管理する仕組み

「今年度のデジタル・イノベーション室の取り組みのテーマは、プロセスイノベーション、ビジネスイノベーション、デジタル基盤の整備の3つです。RPAは、プロセスイノベーションの中核で、徹底的に活用することで生産性を高めることを目指しています」(齊藤氏)

なお、ビジネスイノベーションの施策としては、事業投資先でのデジタル技術の活用(IoT)や、社外情報収集・社外交流などのオープンイノベーションに取り組んでいる。また、デジタル基盤整備では、経営データの見える化や、連結IT経営基盤整備などの施策に取り組む。

「これから、時間、意欲、方法という3つのステップで現場をバージョンアップしていきたいと思っています。RPAの活用で時間を作ることができました。次のステップである意欲のカギは成功体験です。それをさらに進め、デジタル技術・デザイン思考といった方法の活用に進んでいきます」(齊藤氏)

RPAの真の狙いはイノベーションだ。鉄の使用量が今後も持続的に増えていくとは限らない。例えば、自動運転が高度に進めば、材料として鉄ではなく、アルミニウムや炭素繊維が主流になるかもしれない。実際、国内需要は減少傾向にあるという。齊藤氏は「10年先、20年先を見たときに危機感があります。RPAをきっかけに鉄鋼業界でのイノベーションを実現していきたいと思います」と今後を見据えている。