欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)のATLAS測定器で実験を行うATLAS日本グループの主要メンバーである東京大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、ヒッグス粒子がボトムクォークと相互作用(湯川結合)する証拠をATLAS実験などのデータで観測することに成功したことを明らかにした。詳細は、8月28日付けの学術誌「Physics Letters B」に掲載された。
LHCは2012年、ヒッグス粒子を発見することに成功。2015年からは衝突エネルギーを13TeVに増強した第2期実験として、ATLAS実験グループが第3世代フェルミ粒子であるトップクォーク、タウ粒子がヒッグス粒子と結合している証拠を観測するなどの成果を挙げてきた。
今回の成果は、2017年までに取得したデータを解析した結果、ヒッグス粒子がボトムクォーク対に崩壊した事象を確度5.4σの有意水準で観測することに成功したというもの。
ヒッグス粒子がボトムクォーク対に崩壊する確率は60%と、これまでに観測されている他の荷電レプトンやW粒子対、Z粒子対、光子対に崩壊する確率よりも大きいものの、実験的に観測が難しいという課題があった。今回の研究では、第2期実験で得た膨大なデータを元に、機械学習などの解析技術を活用することで、バックグラウンド(ノイズ)の除去に成功。高い確度での観測に成功したとのことで、その頻度は標準理論の枠内で予想したヒッグス粒子のものと、誤差の範囲内(20%の精度)で一致するという。
なお、今回の成果により、第3世代フェルミ粒子とヒッグス粒子の相互作用がすべて観測されたことで、物質を構成するフェルミ粒子と力を伝える素粒子、ともに同じヒッグス機構で質量を得ていることが判明したことから、研究グループでは、今後は、第2世代フェルミ粒子との結合についての観測も目指していくとしている。