ロシア国営の宇宙企業ロスコスモスは2018年7月10日、国際宇宙ステーション(ISS)に補給する物資を搭載した「プログレスMS-09」補給船を打ち上げた。

補給船はその後、3時間40分でISSにドッキング。従来、プログレスは打ち上げからドッキングまで約6時間かかっていたが、それを大幅に短縮する史上最短記録を樹立した。

この技術を有人のソユーズ宇宙船の打ち上げにも取り入れることで、宇宙飛行士の負担が大きく軽減できると期待されている。

  • プログレスMS-09を載せた「ソユーズ2.1a」ロケットの打ち上げ

    プログレスMS-09を載せた「ソユーズ2.1a」ロケットの打ち上げ (C) Roskosmos

プログレスMS-09

プログレスMS-09を載せた「ソユーズ2.1a」ロケットは、日本時間10日6時51分(バイコヌール時間3時51分)、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地の第31発射台から離昇した。

ロケットは順調に飛行し、約9分後にプログレスMS-09を予定どおり分離。地球を回る軌道に投入した。

プログレスMS-09はその後、軌道を修正しつつ地球を約2周し、ISSに接近。そして打ち上げから3時間40分後の10時31分に、国際宇宙ステーション(ISS)のピールス(ピアース)・モジュールにドッキングした。

補給船には食料や水、日用品、燃料や酸素、新しい宇宙服など、約2567kgの物資が搭載されている。

  • ISSに接近するプログレスMS-09

    ISSに接近するプログレスMS-09 (C) NASA

わずか3時間40分で到着

今回の打ち上げでは、打ち上げからドッキングまで軌道を約2周回、時間にして4時間弱で行う、新しい飛行プロファイルが初めて試験された。

かつて、プログレス補給船や、有人の「ソユーズ」宇宙船は、打ち上げからドッキングまで約2日かかっていた。しかし、2008年に運用が始まった「プログレスM-M」補給船から飛行時間の短縮が可能となり、2012年に打ち上げられた「プログレスM-16M」で6時間でのドッキングに成功。そして、のちにソユーズ宇宙船にも取り入れられ、2013年の「ソユーズTMA-08M」から6時間の飛行が行われている。

6時間での飛行が可能になった背景には、プログレスM-M型、ソユーズM-M型からコンピューターがデジタル化されたことで、ISSとの軌道修正に必要なエンジンの噴射量を計算したり、噴射後に自身の軌道を決定したりといったことが正確かつ迅速に行えるようになったという理由がある。

ただ、ISSの軌道と発射場の位置との関係上、6時間で打ち上げられるタイミングは3日に1度しか訪れない。また、打ち上げ直前にISSがデブリの回避などで軌道を変えたり、ロケットや宇宙船の不具合で正確な軌道に投入できなかった場合などには、やはり6時間での飛行はできず、2日かかる飛行プロファイルに戻す必要がある。

約5年が経ったいま、6時間での飛行はほぼ標準的なものになった。しかしロシアは、飛行プロファイルをさらに最適化することで軌道2周回、4時間弱でドッキングする方法を考案。今回のプログレスMS-09で初めて実施され、成功した。

もともとこの4時間での飛行は、昨年10月に打ち上げられた「プログレスMS-07」や、今年2月の「プログレスMS-08」で行われるはずだったが、ともに打ち上げ直前にトラブルが起きたために延期。その2日後に打ち上げられたものの、軌道の条件などから、従来の2日かかる飛行プロファイルに切り替えられていた。今回の成功はまさに「三度目の正直」だった。

この成功後、ロシアのプーチン大統領は、関係者とロシアの宇宙産業の競争力の高さを称えるコメントを発表している。

  • ISSに接近するプログレスMS-09

    ISSに接近するプログレスMS-09 (C) Roskosmos

有人飛行への適用も、さらに1周回でのドッキングも

ロシアは今後も、プログレスで今回のような試験を何度か行ったのち、いずれはソユーズの飛行にもこの技術を取り入れることになっている。

打ち上げからドッキングまでの時間を短縮することは、プログレスにとってはあまり恩恵はないものの、有人のソユーズにとっては、搭乗する宇宙飛行士の負担の軽減につながる。

ソユーズに乗る飛行士は、打ち上げの10時間前から窮屈な宇宙服を着なければならない上、ソユーズの船内も狭く、まさに閉じ込められるような状態になる。さらに船内にトイレはあるものの、使用回数を抑えるために、打ち上げ前に浣腸をして腸の中を空っぽにする必要もあった。

しかし6時間の飛行プロファイルが取り入れられて以来、こうした負担は大きく軽減されているが、さらに3時間40分にまで短くなれば、より軽くなることが期待でき、その恩恵は大きい。

また、プログレスやソユーズを製造しているRKKエネールギヤによると、1周回(約1.5時間、90分)でのドッキングも技術的に可能であり、将来的に実施する考えがあるという。

ちなみに打ち上げからドッキングまで3時間40分という記録は、ISSへのドッキングでは史上最短ではあるものの、宇宙船同士のドッキングという点でいえば史上最短ではなく、過去により短い例はいくつかある。

たとえば1967年に打ち上げられた無人のソユーズ7K-OK同士(コースマス186と188)のドッキングは、コースマス188の打ち上げから77分後に行われている。

ただしこれは、ドッキングする側のコースマス188だけでなく、先に打ち上げられたコースマス186もまた積極的な軌道修正を行い、お互いの機体が協力して軌道をうまく合わせることができたために実現した。ISSのような、軌道を大きく変えることができない機体を相手にしたドッキングとしては、今回が史上最短記録となる。

  • ISSとドッキングする直前のプログレスMS-09

    ISSとドッキングする直前のプログレスMS-09 (C) Roskosmos

参考

https://www.roscosmos.ru/25287/
S.P. Korolev RSC Energia - News - RSC Energia: Cargo vehicle Progress МS-09 docked to the ISS
Progress MS-09 mission to ISS
https://www.roscosmos.ru/25288/
S.P. Korolev RSC Energia - News - RSC Energia - Roscosmos: two-orbit spacecraft rendezvous profile features

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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