もっと発明されるべき“作品に溶け込む広告”

タテヨコという新たなメディアを生み出した水崎氏。その目に現在の動画環境はどのように映っているのだろうか。

「スマホやタブレットが動画視聴の主流になってきていることは間違いないでしょう。しかし、CMがあり、番組があるという形は、テレビが主流だった時代と変わっていません。はやく見たい動画があるのに広告のせいで視聴がさえぎられてしまうのでは、その広告自体が憎たらしいものになってしまいますよね。自分がスポンサーの立場だったら、せっかく広告を出したのに『早く終われ』と思われるのは嫌じゃないですか。なので、広告のカタチは変わっていくべきだと思います」

  • 神風動画 代表取締役/演出の水崎淳平氏

たしかに、動画再生を待つ間に流れる広告は「あと5秒でスキップできる」のカウントに目が行きがちだ。広告には目もくれず、秒数がゼロになった瞬間にスキップする人も多いのではないだろうか。

「YouTuberのようなインフルエンサーの活用は、憎たらしくない広告の1つのいい例でしょう。また、2018年4月から放送されているアニメ『ひそねとまそたん』では、実在する企業の製品が作中にいくつも登場します。追加でスポンサー料が発生しているのかどうかはわかりませんが、作品の中に自然に入り込む広告という点で、大きな可能性を感じますね」

ボンズが制作している『ひそねとまそたん』では、番組スポンサーであるヤクルトの「ジョア」や、北海道のおみやげで有名な「白い恋人」などが作中に堂々と出てくる。同作公式Twitterには、“ひそねが飲んでいたジョアはジョア好きのスタッフがいてリアリティーを演出するた為に、ヤクルトさんからも許諾をいただいて劇中に登場!!!!”と、投稿されていた。

「ちなみに、作中に広告を入れる先駆けともいえるのが、アニメ『TIGER & BUNNY』です。見たいものを邪魔するのではなく、まさに“作品に参加する広告”。視聴者からしても、そのような取り組みをする企業は応援したくなるのではないでしょうか。同様のアイデアがもっと発明されればいいと思います」

『TIGER & BUNNY』では、実在する企業が、ヒーローとして活躍する作品内キャラクターのスポンサーとなり、登場キャラは企業のロゴがデザインされたコスチュームを着て戦う。2018年1月に同作の新シリーズ制作が発表されたときには、多くの企業が「スポンサーになりたい」と声をあげた。

  • 神風動画 代表取締役/演出の水崎淳平氏

表現方法によって、広告の可能性はまだまだ広がっていくと信じる水崎氏。どのような未来が訪れると考えているのだろうか。

「最近、インターネットのバナー広告などは、閲覧したサイトや検索したワードによって表示される内容が変わりますよね。将来的には、アニメ映像内にも座標が設定されて、視聴者の属性に合わせた広告がリアルタイムに入るようになればおもしろいと思います。同様の広告が一般的になってくれば、企業のCM予算を、スポンサー料としてアニメーションの制作費に回してもらえるかもしれません。そうなると、クリエイターの糧にもなるわけです」

現状では、仮に革新的なアイデアが生まれても、予算が途中で消えてしまい、現場は手間が増えるだけなのだという。

「タテヨコの開発は、そのようなアニメ業界の構造に一石を投じるという意味もありました。タテヨコをきっかけに、各スタジオが自分なりの武器を探すようになるとうれしいですね」

動画や映画といった作品を視聴する際、CMは「自分とは関係のないもの」という意識になりがちだ。記憶に残りにくいだけでなく、露出頻度や長さによっては嫌悪感さえ抱かれかねない。特に、好きなときにサクッと楽しめるモバイルでの動画視聴であれば、CMの時間はテレビ以上に鬱陶しく思われるだろう。それよりも「映画の主人公が飲んでいた飲みもの」や「好きなキャラクターお気に入りのアイテム」のほうが、視聴者に親しみを感じてもらえるのである。

水崎氏の描く、広告が溶け込む映像作品。その実現には、制作会社とスポンサーによる二人三脚の映像づくりが必要なのかもしれない。