2015年に冥王星を探査した探査機「ニュー・ホライゾンズ」が2018年6月5日、約6か月間にわたる「冬眠モード」から目を覚ました。

探査機はこれから、2019年1月1日に予定されている太陽系外縁天体「ウルティマ・トゥーレ」の探査に向けた準備を開始。太陽系の最果てを目指す、ニュー・ホライゾンズの新たな冒険が始まった。

  • ニュー・ホライゾンズの想像図

    太陽系外縁天体「ウルティマ・トゥーレ」を探査するニュー・ホライゾンズの想像図 (C) NASA/JHUAPL/SwRI

ニュー・ホライゾンズ

ニュー・ホライゾンズ(New Horizons)は、米国航空宇宙局(NASA)やジョンズ・ホプキンズ大学などが開発した探査機で、人類初となる冥王星の探査を目指し、2006年1月19日に打ち上げられた。

そして9年にわたる宇宙航行を経て、2015年7月14日、冥王星とその衛星の近くをフライバイ(通過)して観測を実施。数多くの画像や観測データを地球に送り、謎だらけだった冥王星の姿を明らかにし、探査は大成功に終わった。

その後、探査機の状態が良好だったことから、NASAはミッションの延長を決定。太陽系外縁天体のひとつである2014 MU69、愛称「ウルティマ・トゥーレ」を探査する新たな計画が立ち上がった。それに備え、2017年12月21日から、観測機器などを温存するため必要最低限の機器以外の電源を落とす「冬眠」(Hibernation)モードに入っていた。

そして約6か月の眠りを経て、ニュー・ホライゾンズはあらかじめ送られたコマンドに従い、起床。日本時間6月5日15時12分(米東部夏時間5日2時12分)に、運用チームは探査機からの信号の受信を確認した。

ニュー・ホライゾンズの運用マネージャーを務めるAlice Bowman氏(ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所)は、「すべてのシステムが予定どおり復帰しました。探査機の状態は健全で、正常に機能しています」と語る。

現在ニュー・ホライゾンズは、地球から約60億km離れたところを飛んでいる。次の目的地のウルティマ・トゥーレまでは約2.6億kmまでに迫っており、毎日、約122万kmずつ距離を縮めていく。

このあとニュー・ホライゾンズは、約2か月をかけて、探査機の各機器や観測装置の機能確認や調整、メモリーの更新、周囲の太陽系外縁天体(海王星の軌道より外側の、黄道面に広がる天体の総称)の観測などを実施。そして8月からは、ウルティマ・トゥーレの観測を行い、うまく最接近できるよう、コースの修正を行う。

ミッションの主任研究員を務める科学者のAlan Stern氏(サウスウェスト研究所)は「ニュー・ホライゾンズが冬眠から目覚めたことに興奮しています。私たちはすでに、ウルティマ・トゥーレのフライバイ観測に向けた計画の策定やそのシミュレーションのため、忙しい日々を過ごしています」とコメントしている。

  • ニュー・ホライゾンズと冥王星

    ニュー・ホライゾンズと冥王星 (C) JHUAPL/SwRI

太陽系の最果てにある「ウルティマ・トゥーレ」

ニュー・ホライゾンズの次の目的地である2014 MU69は、エッジワース・カイパーベルトにある太陽系外縁天体のひとつ。2014年に、ハッブル宇宙望遠鏡によって、ニュー・ホライゾンズが冥王星探査の次に訪れることができる天体を探している際に発見された。

この天体には、ニュー・ホライゾンズの運用チームによって、「ウルティマ・トゥーレ」(Ultima Thule)という愛称がつけられている。これは公募で選ばれたもので、ラテン語で「世界の最果て」を意味する。ただしあくまで愛称であり、国際天文学連合(IAU)が認めた公式な名前ではない。NASAではニュー・ホライゾンズのフライバイ後、公式な名前を提案するとしている。

ウルティマ・トゥーレの直径は約30km、太陽からの平均距離は約44天文単位(約66億km)で、公転周期は約294年と見積もられている。また海王星の外側を回り、海王星の重力の影響も受けず、さらに公転軌道はほぼ円に近く、軌道傾斜角の傾きもほとんどない、キュビワノ族の天体のひとつに分類されている。

あまりにも遠すぎるため、その姿かたちは正確にはわかっていない。ただ、望遠鏡による観測から、ピーナッツ型か、あるいは2つの天体がお互いに周囲を回っていると推測されている。また、小さな衛星(月)をもっている可能性も示唆されている。

  • 地球から撮影されたウルティマ・トゥーレ

    地上の望遠鏡が撮影したウルティマ・トゥーレ (C) NASA/JHUAPL/SwRI

ニュー・ホライゾンズは、冥王星を探査したときと同じく、天体の近くを猛スピードで通過する際の、わずかな時間だけで探査する。それでも、2014 MU69の姿かたちにはじまり、衛星や輪の有無、表面温度や質量、そして彗星との差異や、彗星核の周囲にあるガスや塵のような「コマ」があるかどうかなどがわかると期待されている。

現在のところ、ウルティマ・トゥーレへの最接近は、日本時間2019年1月1日14時33分ごろと予測されている。最初のデータが送られてくるのは、その約6時間後になる。

太陽系の最果てにして、人類が現代の技術で訪れることができる最果ての天体を目指し、ニュー・ホライゾンズの新たな冒険が始まった。

  • ウルティマ・トゥーレを探査するニュー・ホライゾンズの想像図

    ウルティマ・トゥーレを探査するニュー・ホライゾンズの想像図 (C) NASA/JHUAPL/SwRI/Carlos Hernandez

参考

New Horizons:: New Horizons Wakes for Historic Kuiper Belt Flyby
New Horizons NASA’s Mission to Pluto and the Kuiper Belt
New Horizons Chooses Nickname for ‘Ultimate’ Flyby Target | NASA
JPL Small-Body Database Browser
Does New Horizons’ Next Target Have a Moon? | NASA

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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