高輝度光科学研究センター(JASRI)は、東北大学らとの共同研究チームが、月隕石から「モガナイト」と呼ばれる、生成に水が不可欠な鉱物を発見し、これが月の地下に眠る氷の痕跡であることを突き止めたことを発表した。

この成果は、東北大学 学際科学フロンティア研究所・理学研究科の鹿山雅裕助教と、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、神戸大学、京都大学、広島大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)などの共同研究チームによるもので、5月3日、米国科学誌「Science Advances」にオンライン公開された。

  • 月の水は、太陽光で熱せられた表面では蒸発してモガナイトを作り、地下には氷として残る- illustrated by M. Sasaoka (SASAMI-GEO-SCIENCE)(出所:JASRI Webサイト)

    月の水は、太陽光で熱せられた表面では蒸発してモガナイトを作り、地下には氷として残る- illustrated by M. Sasaoka (SASAMI-GEO-SCIENCE)(出所:JASRI Webサイト)

モガナイトは地球には広く存在しているが、その生成には水が不可欠であるため、地球にしか存在しないと考えられていた。しかし、今回の研究で13種類の月隕石を対象に分析を行ったところ、NWA2727と呼ばれる月隕石からモガナイトを発見した。分析に際しては、ラマン分光計、大型放射光施設SPring-8のBL10XUの放射光X線回折装置および電子顕微鏡が用いられた。

この成果から、モガナイトの成因となる月の水は、水を豊富に含む天体が、月のプロセラルム盆地(ウサギにみえる影模様)に衝突することで供給されたことが判明した。また、月の水は太陽光で熱せられた表面では蒸発してモガナイトを作るが、低温である地下数mでは氷として残ると考えられ、その氷の埋蔵量は岩石1m3あたり少なくとも18.8リットルにも達することから、月の地下に大量の氷が眠っている可能性が示された。

  • 月隕石NWA2727の写真(出所:JASRI Webサイト)

    月隕石NWA2727の写真(出所:JASRI Webサイト)

月の水や氷は、科学目的だけに留まらず、人類が月面で活動するために欠かせない貴重な水資源(飲料水や水素燃料)でもあるため、水資源の獲得と現地での資源利用を目的とした月の無人・有人探査が各国で 計画されており、その機運が近年急速に高まっている。

日本も将来的にこのミッションに参画すること を現在検討しているが、月の水や氷に関する科学データはまだまだ少なく、特に今回のような 月の岩石を対象とした水の探索に関する報告例は未だ乏しい。

今後は、未調査の月隕石やアポロ・ルナ計画で回収された月の試料に対して微小部分析を行い、そこから水や氷の痕跡を探る研究を予定しているという。これにより、月の水や氷に関するさらなる事実の解明が期待され、現在検討されている月の探査計画の推進に繋がる科学データを取得することが可能になるということだ。